『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』を観た。
タクシーに乗っていて、まもなく目的地に着くところで後部座席に座っている私はなんだかそわそわしている。料金メーターがギリギリあがらないかつ、なるべく徒歩せずに済む降車地点、かつタクシーが停められるポイントを、決めるタイムリミットが迫っている。
「それじゃあの信号の近くで降ろしてもらっていいですか?」意を決して、運転手さんにお願いをする。目的の信号の1個前の信号が赤信号になる。これは手痛い停滞だ。メーターに目をやるとしっかり上昇している。たかが数十円だけど、ちょっとへこんだ気分になって到着。携帯を車内に忘れずに帰れた自分ぐらい褒めてあげよう。
タクシーから東京の夜の景色を見ると、2021年爆バズリアニメのひとつであった『オッドタクシー』を思い出す。東京を舞台に、セイウチのタクシー運転手・小戸川、アルパカの看護師、ゴリラの医者など擬人化された動物が登場するファンタジーあふれる物語、、、ではなく、ある女子高生の失踪事件をきっかけに小戸川が東京の闇に巻き込まれていくノワールだ。
物語においてタクシードライバーというものは、災難に巻き込まれがちだ。前の車を追ってほしいと頼まれる運転手から、少女を救おうとモヒカンになって拳銃を握る運転手まで様々だ。そしてこの小戸川も。チンピラだったり、謎の陰キャだったり、色々な人物から狙われる。それぞれのキャラクターも立っているし、複数の謎が結末に向けてひとつになっていく展開も緻密だ。
主題歌を歌っているPUNPEEが好きな私は第1話からリアルタイムで観ていて、ビジュアルとダークな展開の落差に衝撃を受けつつも、あの3ヶ月だけ月曜日は夜ふかししていて観ていた。アニメ本編だけでなく、YouTube上でサブストーリーも公開されていて、放映当時は考察班が色々と書いていたのを読みながら最新話を待ち望んでいた。それが今や大ヒットコンテンツに。それで今回は映画化ということなのだから、あのときの私を褒めてあげたい。
映画化だが、どちらかというとアニメの総集編+αという仕上がりになっている。これまでのアニメ12話の本筋を再構築して、12話で起きた衝撃のラストの「その先」を描いている。オフビートな会話パートが削がれているのは、展開の複雑を考えるとしょうがないのかな。「その先」の物語が始まりそうなとき、館内はすでに静寂なのに、さらにもうひと段階、静寂になったような感覚だった。
良いポイントでタクシーから下車するように、物語において難しいのはピリオドの打ち方だと思う。小戸川たちの世界でどこを切り取るか、特にアニメ版はピリオドの打ち方が完璧すぎたために、「その先」の生活感みたいなのがにじみ出てしまうのはしょうがなかった。ただ、小戸川たちがその世界の中で生きているという実感が感じられた終わり方なのかなと思う。
タクシーから東京の街をながめても、どこのビルにもカポエイラ教室の看板が見えなかった。カポエイラの体験教室があれば一回受けてみたいなあ。