砂ビルジャックレコード

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子供は光や希望であれ【ベイビー・ブローカー】

『ベイビー・ブローカー』を観た。

 


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子供の頃のぼんやりとした記憶で、ある親の一言が未だに記憶に残っている。「〇〇はあそこの川で拾ってきたんだよ」今考えれば全くユーモアの欠片のない言葉と気付けるのだけど、子供の授かり方という概念もなかった当時の私は、しばらく信じていた。実際、家の近くに川があったし、その嘘を全く否定する人もいなかったのも信じていた一因である。

 

『ベイビー・ブローカー』は韓国を舞台にした物語。どうしても育てることの出来ない赤ちゃんを預ける「ベイビーボックス」の前に、一人の赤ちゃんが置かれるところから話が始まる。ベイビーボックスに預けられた赤ちゃんを養護施設に移さず、どうしても子供がほしい夫婦に裏ルートで販売するサンヒョンとドンス、ベイビーボックスに赤ちゃんを置き去ったものの、やはり自分で育てようとする母のソヨン。

 

この2組は偶然出会い、ソヨンの子供を売ろうと韓国中を駆ける。そんな赤ちゃんの人身売買の現場を抑えようとする刑事のスジンらも出てきて、話が進んでいく。監督は『万引き家族』でおなじみの是枝裕和監督。『万引き家族』のように、複雑な人生の背景を持つ、血の繋がりのないものたちが、「家族」として社会を生き抜くストーリーだ。

 

今回の主人公たちのゴールは「ソヨンの赤ちゃんを売る」ということだ。もちろん人身売買はアウトなのだけど、ソヨンが赤ちゃんを売るに至った理由やサンヒョンやドンスの過去を思うとどうしても彼らに感情移入してしまう。そんな彼らをさらに家族とするには、ドンスを慕う養護施設出身の子供であるヘジンのキャラクターだ。ソヨンの赤ちゃんを自分の弟のように愛し、ある事件の責任は自分にあると落ち込んだりするヘジンに心を癒やされる。この作品全体を通して、子供を光や希望のように描写している。

 

そう、子供は光や希望であるべきなのだけれども、この世界に赤ちゃんポストが存在しているのには、社会的な事情があるわけで。韓国が抱える(というより日本もそうだけど)現状が観客に突きつけられる。「子供を産んでから捨てるより、産む前に殺す方が罪が軽いの?」というそのセリフが胸に突き刺さる。大人となった自分の無力さを思い知らされる。