砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

呪われた一族【アイアンクロー】

『アイアンクロー』を観た。


www.youtube.com


その痛みを容易に想像できるという点ではアイアンクローという必殺技は理想的だ。己の強靭な握力を生かして、相手のこめかみを掴んで、リンゴのように潰そうとする。この単純明快な力技に「アイアンクロー」と名付けたのもかっこいい。もう片方の手を、握る方の手首に添えているのも趣がある。おそらくリアルタイムで見ていた父親にかけられたし、技名を覚えてからは小学校で実践してみたりしていた(子供の握力では全く意味がない)

このアイアンクローの使い手が伝説的なプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックという男で、彼の息子たちもプロレスラーになる。『アイアンクロー』は、このエリック家の数奇な人生を元にしたドラマだ。

自分はプロレスが好きで、フリッツ・フォン・エリックやエリック家が「呪われた一族」と呼ばれていることも知っているが、あくまでもWikipedia上の情報に過ぎない。プロレスに興味を持つ前に起きた出来事だから、映像で歴史を勉強しているような感覚でもあった。

作中には、エリック家以外のプロレスラーも対戦相手などで登場していた。ここで自分が知っている選手が出てくるとテンションが上がる。ブルーザー・ブロディやリック・フレアーとか、それぞれのレスラーのクオリティも高い。当時のプロレス中継の雰囲気を感じ取れるのも好きだ。アメリカのケーブルテレビで放映されていたプロレス中継の、レトロフューチャーなテロップだったり、ヘッドホンをつけたアナウンサーの名調子などリアルタイム世代でなくてもわくわくする。

「呪われた一族」という異名が、ついていることからわかるようにエリック家を待ち受けている運命は壮絶だ。一方でエリック家の息子たちにも、プロレスラーであることを望まれる呪いみたいなものも降り掛かっていく。顛末を知っているから、少し見たくない部分はあったけどもその事実を過度に脚色せず、淡々と描いているのが好きだ。

いきなりエルヴィス【プリシラ】

プリシラ』を観た。


www.youtube.com

商品の比較サイトを多用している。値段やサービスなどいくつかの項目に分かれた表を見ながら何が最適解なのか検討が止まらない。優柔不断な自分が嫌でありながらも迷う幸せを感じている。人生では比較して最善の選択をとるという行為自体が出来ない場面がよく存在する。

実話が元になっている『プリシラ』では、人生の序盤にもかかわらず主人公にとって重要な決断が突然やってくる。親の仕事の都合で西ドイツに暮らしていた14歳の少女プリシラの前に現れたのは世界的大スターのエルヴィス・プレスリー。兵役中でたまたま西ドイツにいたエルヴィスと出会った二人は徐々に関係を深めていく。

この映画を見るまでプリシラという女性のことを知らなかったがなんとも数奇な人生だ。まだ恋愛をよく知らない年頃の人間が、世界中から愛される歌手と恋に落ちるって。恋愛はタイミングっていうけれど、なんとも早すぎる。最初からラスボスと対峙するようなもので、出会ったが最後。付き合うも別れるもプリシラは選択をしなければならない。たしかにチャンスは平等だけど残酷。

プリシラが選択したあとに待ち構えている展開も考えさせられる。かたや学生、かたや大スターで、もともと違う世界にいた二人が強いつながりを持ってしまったからには歪みが生まれるわけで、学校に通いながらも、華やかな時間を知ってしまったプリシラの苦悩が描かれていく。

ハッピーエンドという言葉はあるけど、それはあくまで、その”物語”における最後のページが幸せだったわけで、実際の人生ではその先が続く。「プリシラ」でもハッピーエンドで終わってもいい瞬間が何度もあるけど、そんなキレイなものではない。エルヴィスに振り回されるプリシラの空虚な感じが、囚われたプリンセスのようだった。

一方でエルヴィスの苦悩も見逃せない。大スターならではのプレッシャーによる弊害がプリシラにも及んでいく。果たしてこの二人は一緒に歩むことは幸せだったのか?当時とは違った時代に生きている自分が判断することはおこがましいけど、シンデレラストーリー的な構図にも関わらず、何か素敵なロマンスと手放しでは思えない。彼らの人生の中での美しい瞬間は描かれているけど場面として記憶に残っているのはそれぞれが抱えていた孤独な表情だ。

ただ、この『プリシラ』におけるラストシーンは、自分にとってはハッピーエンドとして捉えた。大きな幸せを続けることの難しさを痛感した。

 

松屋のドレッシングのことしか考えていない

最近、仲の良い人に会うたびに松屋のドレッシングの話をしている。松屋には卓上にフレンチドレッシングとごまドレッシングが置いてあるのだが、そのごまドレの方が「ごまと野菜のドレッシング」とリニューアルしたのだ。これがとても美味しくて、しばらく他のドレッシングのことが考えられなくなった。

大人になってから「一番美味しいドレッシング」は何なのか?というハイソサエティな話題がかつて繰り広げられたことがある。まだ大人になりたてだった私は、実家で親がたまに買ってくるピエトロドレッシングしか手札がなくて肩身が狭かったのだけど、今なら堂々とその話題に参加できる。お中元でもらったドレッシングの話をする諸先輩方を、このニュースターで打ち破ってやるのさ。自分から話したいテーマを振るのは恥ずかしいから誰か適切なタイミングで頼む。

この新ドレッシングがあれば生野菜がひたすらに食べられるのが良い。松屋の定食についているサラダは、その後のうまトマや豚生姜焼き、最近だと各国の珍しい料理を食べるための免罪符的な側面を持っていたけど、価値観が変わった。早くドレッシングをかけたくて店内の呼出番号画面を観ながらうずうずとボトルを振っている。生野菜定食を出されても全然大丈夫だ。生野菜の大盛りでお願いしたい。

必勝の食べ方も編み出している。おすすめしたいのは牛焼肉定食だ。味付けされていない牛肉でドレッシングを絡ませた生野菜をぐるりと巻いて一気に食べる。牛肉の油っこさが野菜で軽減されるとともに、ドレッシングと肉の旨味が口いっぱいに広がる。これが完全食。フリーズドライにして宇宙飛行士に食べさせてあげたい。

あまりにも美味しいのに世間で騒ぎになっていないので念の為調べてみるとまだテスト段階で、限られた店舗だけで食べられるらしい。その店舗で出会ってしまった幸せを噛み締めている。みんなの食卓であるとともに、わたしの食卓であってくれ、松屋