砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

純粋な愛の断面から狂気【愛なのに】

『愛なのに』を観た。


www.youtube.com

 

人生で愛を与えたり、愛をもらったり、愛を見たり聞いたりしたけど、愛ってものはさっぱりわからない。形がないからというものではなくて、大きさや小ささ、温度もそれぞれ違うのに、それが愛だと言うなら愛となってしまうからだ。『愛なのに』でも登場人物が愛に基づいた行動をしているがどれもこれも狂っている。

 

突然、古書店の店主にプロポーズする女子高生。プロポーズされたけどフラれたバイト先の女性のことが忘れられない古書店の店主。バイト先の同僚をフッた後、別の男性と婚約した女性。その婚約者が抱える秘密。妙にリアリティのある登場人物たちが繰り広げる暴走劇にニヤリとする。

 

主人公の古書店の店主の多田は30代前半の独身男性だ。あるとき女子高生の岬に求婚される。トレンディな恋愛とは無縁の文化系の極みの人物が、青春ラブストーリーの世界に迷い込む。そんな恋愛あるわけないと思いつつも、心のどこかで愛の純粋さが、その「あるわけない」を打ち壊すのではないかと期待している自分がいた。

 

きっとそれは青春ラブストーリーを経験せずに、いつの間にか文化系にカテゴライズされた自分が勝手に多田と重ね合わせているからだ。この作中の登場人物の設定が絶妙で、観客はそれぞれ誰かに自分を投影しているのではないだろうか。フィクションだとわかっていながら、登場人物が傷つくことで、観客にも少しだけ苦い後味が心に残る。その苦味がなんだか愛おしくもある。

 

作中の人物が繰り出した愛ある行動を一行で書き記してみる。それらの行動に「愛なのに」という言葉をつけたくなるほど、不器用で狂っている。結局愛ってなんなんだ?固形か液体か?感情か?結果か?なんだかわからない愛なんて見たいけど見たくない。理解したいけど理解したくない。もらいたいけどもらいたくない。強烈にあげたい。