『15時17分、パリ行き』を見た。
所さんの「笑ってコラえて」の中で、最近はやってないようだが「日本列島 結婚式の旅」というコーナーがあった。所さんの導きにより選ばれた、結婚式を控えるカップルを主人公に2人の馴れ初めを再現VTRで紹介するという企画だ。その再現VTRは結婚式で流れるのだが、本人役で再現しているというところがポイントだ。出会いのシーンには少し無理が生じはじめているし、結婚の挨拶のシーンでは親も本人役で出てくる。もちろんみんな素人なわけで、そのなんともいえない演技力にテレビの向こうの私は変な恥ずかしさを感じたものだった。
時は流れて、この『15時17分、パリ行き』という映画が出来た。実際に発生した列車テロ未遂事件をもとにした内容だ。監督は巨匠クリント・イーストウッド。前作『ハドソン川の奇跡』でも実際の出来事をテーマにしていた。「日常生活に現れたアメリカンヒーロー」という共通点があるといえる。『ハドソン川の奇跡』では機長をトム・ハンクスが演じたが、本作は誰が主演なんだろう。スペンサー・ストーンって誰だ?え、本人なの?本人が本人役で出るの?所さん!大変ですよ!クリント・イーストウッドが!!!
物語は、英雄となった3人の子供時代から語られる。さすがに少年期は別人が演じているのだが、満を持して本人たちが登場する。登場シーンのぎこちない演技に「結婚式の旅」を観ていたときに感じた恥ずかしさが自分の心に蘇る。いわばデビュー作。大目に見よう(?)。しかし、そこはクリント・イーストウッド御大。しっかり映画として完成されており、十分に楽しめる。クライマックスとなる列車テロのシーンでは、結果がわかっていながらも手に汗握る映像となっている。 あと、「コーラちっちぇえええ」のくだりはフランスでやりたい。
しかし、この「結婚式の旅」方式で撮影する意味とは何だったのか。そういえば昔はニュース映画なんて使用用途もあった。ニュース映画とフィクション映画の間というか、そんなものなんだろう。この挑戦を“変な試み”として狭く観ているのは我々の方であって、クリント・イーストウッドはこの映画を撮る上での最適な選択肢として、本人が再現するというかたちを撮ったのだ。脚本が脚本ならアニメーションだったかもしれない。と想像すると意外とわくわくする。なんだか映画というものの懐の広さを仙人に見せつけられたようだ。どっかの批評家みたいに意固地にならないで柔軟であることが私たちに求められることなのかもしれない。
そんなクリント・イーストウッド先生に対して、私はクオリティゼロの所さんのマネをしてこう言いたい「す・ば・ら・し・い!」