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狂気は細部に宿る【ザ・メニュー】

『ザ・メニュー』を観た。

 


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人生の中で数える程度しかないけども、1食1万円以上する創作料理のコースを食べに行ったことがある。ファストフード、コンビニフードで育ったこの体にとっては美味しいの前にクエスチョンマークが勝つのがなんだか面白かった。目の前に出された皿の彩りを見て想像し、ウェイターの説明で料理の魅力的なポイントを学ぶ。ストーリーを持ったすべての料理たちは、美味しさとともに、クリエイティブをまとったものだ。動物としての食欲に「待て」をさせられ、人間としての文化的背景を先に味わうこの創作料理には、シェフの狂気も紛れている。

 

『ザ・メニュー』はそんなクリエイティブあふれる料理人の狂気をお腹いっぱいに楽しめる映画である。舞台はとあるレストラン。めったに予約がとれないこのレストランは、孤島に聳え、むしろ島全体がレストランという出で立ち。客は、船で島に上陸し、スタッフによる島の案内のあと、レストランに到着し、ディナーを楽しむ。フルコースで一品ずつ運ばれていくのは創作性の高すぎるものばかり。それどころか料理とは思えないプレートまで提供されてしまう。少しずつ狂気を帯びるシェフのスローヴィクのフルコースに翻弄されていく。主役のマーゴを演じるのはみんな大好きアニャ・テイラー=ジョイ。

 

とにかく注目してほしいのが、スローヴィクが提供する料理の数々。彼の発したいメッセージが料理に込められているのだが、美味しそうという感情よりも嫌悪感や恐怖が伝わってくる。スローヴィクが柏手を打つと、次のメニューの説明が始まるのだが、その瞬間を迎えたくないけど、迎えたくもある。明らかに引いている者、必死にメッセージを読み取ろうとする者、ひたすらに感動して飯を食う者。繰り出された料理を前にした客のリアクションも様々で面白い。ふと、美味しんぼが頭をよぎる。このレストランに山岡士郎と栗田ゆう子が来店したら一体どうなるのだろう。

 

食べることは生きることに密接に繋がる行為だ。だから、料理を作る方も食べる方も極めだしたら終わりが見えない。道を極めることの功罪を面白おかしく描いた映画だった。パゴジェットを使った料理とかいいからやっぱり、俺はファストフードでいいや。