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紙でも読みたい(『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』観たマン)

『フレンチディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』を観た。なが、タイトルながっ。

 


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サブスクでいろいろな雑誌を読むのが楽しい。自分の興味のある雑誌から読んでいくけど、他の雑誌も折角なら…と読み出す。ずっと待たされている皮膚科の待合室のように、5〜60代マダムが対象だと思われる、健康や保険などを特集したものを読むけど一向に頭に入らない。きっとこんな情報を求める日がくるのだろうと思いながら、今は興味の外にある雑誌を、違う世界のガイドブックみたいな位置づけで眺めている。

 

そう、一冊の雑誌はひとつの世界なのである、ということを『フレンチ・ディスパッチ』を観て再確認した。この映画は、雑誌のような構成になっている。巻頭の話題、特集ページなど、オムニバス的に4本の話が描かれている。『フレンチ・ディスパッチ』の編集長が死んでしまった追悼号を発行するという全体の話があって、その中での特集ページが個々の物語として展開していく。

 

個人的には第3特集のグルメに関する話が好きだ。なんともうさんくさいけど、腕は確かな警察署のシェフであるネスカフィエが主人公で、ある騒動にネスカフィエが巻き込まれていく。物語の最後でのネスカフィエのセリフにまったく共感ができないのだけども、とてもジーンとしてしまう。生きることへの執着というか、職業ならではの狂気というか。レオナール・フジタ感がすごいネスカフィエを一度観たら忘れることはできないはずだ。

 

監督は『グランド・ブダペスト・ホテル』でおなじみのウェス・アンダーソンウェス・アンダーソンの世界観全開の色彩やキャラ設定が満載だ。とにかく情報量がとんでもない。ワンカットワンカットが見開きページのように吸い込まれそうになる。もちろん物語の本筋はしっかりと追えるようにはなっているが、「この特集は自分のペースでゆっくりと読みたい」みたいなことは出来ずに流れていってしまう。架空の雑誌なのに、架空の表紙が何パターンも作られているなど、おそらく常人では気にもとめないであろう詳細な箇所まで作り上げられている。

 

観終わって、紙媒体としての『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が猛烈に欲しくなった。好きな特集から読んで、じっくりと言葉や挿絵を目に焼き付ける。自分の世界を広げたくなったら、他のページをぱらぱら読む。追悼号だし、きっと引っ越ししても捨てられない雑誌のひとつになるんだろうな。本当に発売されるなら、もちろんかっこつけて、原書版で買う。