砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

ホテルは常に輝いていて

習慣というのは恐ろしいもので、不特定多数の人物がいるごはん屋さんに留まることに抵抗感が生まれてしまった。家と違う環境、違うテーブル、違う椅子、違う食器で食べるのが好きだったのに、ひとつひとつ心の壁が生まれるように見えない何かのせいで急に怖気づいてしまった。

 

でも、外食気分は味わいたかったから、家の近所の居酒屋さんが始めたテイクアウトを利用していたけど、この前とうとうGWまで長期休業の張り紙が貼ってあった。もっと頻繁に利用すればよかったと自分のせいにしたくなる。ひとつひとつシャッターの壁が増えていって飲み屋の集合している地域はがらんとしている。

 

営業中のお店が少なくなり、ご飯を買うため行動範囲を広くせざるを得なくなった私は、大きいスーパーで食料を到達する。家までの帰り道を、少し寄り道するとラブホテルが数件立ち並ぶ場所にぶつかる。居酒屋がこの状況の中で、どうなっているか気になったのだ。遠くからちらっと見えるラブホテルは相変わらず光っていて、だんだんその集合地にたどり着くと、恒星みたいな力強さに思わず泣きそうになった。

 

ラブホテルは、カップルが日常から非日常へ溶け込むためのひとつの入り口だ。きらびやかな照明と、洞窟のような入り口。すりガラスの自動ドアの奥には無機質な空き部屋の一覧表。無機質な受付から渡された鍵についた重く大きいキーホルダーの方を握りしめ、ラブホテル用にあるんじゃないか?ぐらい狭い面積のエレベーターに乗る。

 

そんな非日常を提供してくれるラブホテルが、この非常宣言自体下でもきらきら輝いている。境目なく闇夜と混じってしまった静かな周辺の暗さと対比すると、異常なまでのきらびやかさが日常の風景としてくっきりと浮かび上がる。ラブホテルのネオンから日常がまだ残っていることに気づいて感動したのだ。自分の前方を中年ぐらいのカップルが腕を組んでゆっくりと歩いている。スーパーの袋を持った私は、もっとラブホテルの光を浴びたかったけど、いそいそと中年カップルを追い抜いた。こんな状況でも、肉体的に愛したくなる人がいる見知らぬ誰かのことが愛おしくなった。