砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

平行感覚の欠如

この世に平らなんてない、と思っている。正確に言えば、平らを生み出す仕組みがわからない。道路や床、廊下。なにもかもが異常なものに思えてくる。当たり前のように平らな上を歩いているし、生活しているんだけども、そのことを考え出すとクラクラしてしまう。 

 

なぜ私以外の人間はこうも平らを生み出すことが上手なのか。平ら下手な私にとって死活問題なのがテイクアウトだ。まっ平らな弁当を家に持ち帰ろうとするだけで、私の生き延びる力はグングン低下していく。

 

最近のスーパーだとセルフレジが導入されているところも多くて、一連の購入動作を自分自身で行うのだが、平弁のときは命がけだ。買い物かごから取り出す時点から丁寧に平らに取り出し、バーコードを読み取る。一番の難関はレジ袋へ入れることである。あらかじめ袋を広げマチの部分をしっかり確保して、その平弁をそっと置く。すやすや眠った甥っ子をベッドで寝かせるがごとく。そして、ゆっくりと持ち手を掲げ、平行になったことを確認し、スーパーまで出る。ここまでは完璧。完璧だ。

 

自動ドアを出てからが最終ステージ。家までの数分の距離を歩く。幸運なことに今日は人通りも少ない。弁当の平行にだけ注意すればいい!赤信号で止まって、平行ぐあいを確認する。問題なし。青までの時間にスマホを見る余裕ができた。あとは3分の2ぐらいで僕の悲願は達成される。

 

あれ、あのテレビ番組、録画してたっけ?ふと未確認情報が浮かび上がって、もう一度スマホをチェックする。あら、もうすぐ始まるではないか。少し早足になる帰り道。もちろん急いでいるが頭の片隅には弁当の平行を気にしている。左手に異常はなし。かまわず進め。

 

家までは、あと1つの横断歩道。幸いなことに青信号。このままのペースで歩けば番組の放送には間に合いそうだ。歩行の回転数もあがってくる、、、おっと信号が点滅しだした。ちょっと小走りすれば間に合う距離だ。シャトルランでまだまだ余裕なやつみたいなペースで、横断歩道を渡り切る。小走りから早歩きに戻した瞬間、左手の違和感に気づく。そう、その時点ではゲームオーバーだったのだ。

 

逆バンジーのように縦になっているお弁当。もう、持ち手のバランスを整えても平らに戻ることはないことを確信した私は直に弁当を手のひらでつかみ、心の中では半べそをかいて家路を急ぐ。平行な家の床の平行なテーブルの上においたお弁当の白米はしっかり煮汁を吸っていた。ああ銀シャリが食べたい。