砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

破壊なくして(『ビルド・ア・ガール』観たマン)

『ビルド・ア・ガール』を観た。

 


www.youtube.com

 

停滞しているときのもやもや感が苦手だ。どこにも行けなくて、なんにもできなくて、ただゆっくりと死に向かって進行している気がする。とにかく打破したい心と実力が連動しないのが辛いけど、大事なことはそんな状況下においても動きを止めないことだ。とにかく外の世界にむかって刺激を与えていくと少しづつ光が見えてくる。

 

『ビルド・ア・ガール』の主人公であるジョアンナは16歳の高校生で、どちらかというと陰気なタイプ。彼女もまた、現状に不満を覚える。ドラマや映画の主人公みたいな生い立ちに憧れるけど7人家族で裕福とは言えなくて、自分の部屋に貼った偉人たちと妄想で会話している。詩を朗読するテレビの大会に出ても、緊張して失敗。そんなジョアンナにもチャンスが訪れる。音楽誌のライター募集にチャレンジしたところ、まさかの好反応。ここからジョアンナの人生が大きく転がりだす。

 

あんな内気だったジョアンナが音楽ライターとして覚醒する瞬間がたまらない。大人に、男に、音楽に負けちゃいけないと、まるでディズニーヴィランのような出で立ちになり、”ドリー・ワイルド”と名乗るのだ。ドリー・ワイルドとなって音楽業界を渡り歩くのが痛快だが、変身には代償が伴う。読まれる音楽ライターには、毒や爆弾が必要なのだ。徐々に、激辛なコメントをするようになるドリー・ワイルドは心もヴィランのようになってしまう…ジョアンナ時代と時と同じように、トライ・アンド・エラーしながらも、奮闘する姿に心を鷲掴みにされる。親戚目線で、彼女がダークサイドに落ちてしまわないかハラハラドキドキだ。

 

ドリー・ワイルドへの変身後に初めて取材をするミュージシャンのジョン・カイトという男がむちゃくちゃかっこいいのだよ。海外旅行も初めてで、取材のノウハウも全く知らないドリーを面白がり、ダブリンの街を案内するジョン。「ここがジョイスが通ったパブなんだぜ」なんて言ってみたいセリフチャートに電撃ランクインだよ。この、ジョン・カイトとの出会いが、良くも悪くも、ドリーの人生を変えてしまうのだけども。

 

『ビルド・ア・ガール』というタイトルになっているが、この映画は、「ビルド=チャレンジする」の裏側にある、「スクラップ=失敗、再スタート」にスポットライトを当てている。伝説のプロレスラーが『破壊なくして創造なし』と言ったように、自分を次のステージに連れていけるのは、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返す自分だけなのだ。