砂ビルジャックレコード

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この世は波で、僕らも波だ(『WAVES』観たマン)

WAVES』を観た。

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自然界には直線が存在しないと聞いたことがある。その言葉を知ってから、外出するごとに「確かに」と思う場面に何度も遭遇する。白い雲も、海も、草花も曲線で出来ている。そういえば人間だって曲線だらけで出来ている生き物だ。そう、僕らは生きている限り曲線からは逃れられない。

 

自然の構造だけでなく、人生も「山あり谷あり」と例えるように曲線だらけだ。『WAVES』は、タイトル通り波のような高低差のある運命を迎える、ある黒人一家の物語だ。最近の映画をよく見ているみなさんならご存知のA24が配給しているこの映画は、大きく2部構成に分かれている。

 

1部の主要人物は高校生のタイラー。レスリング部のエリートであるタイラーは、部活にも取り組むし、かわいい彼女もいるし、これ以上求めようがない高校生活を送っていた。こんなやつ、同級生にいたら自分の存在感のなさに絶望してしまいそうだ。そして、タイラーの友達枠でアイデンティティを作ろうとするやつも出てくるだろう。それぐらいの充実した”勝ち組”高校生だ。だけども、勝ち組の彼にも悩みがあるし、物事全てが順風満帆にいかない。彼女がタイラーに伝えた、”ある告白”や、レスリング生命を脅かす肩の怪我、エリートとしての重圧がタイラーに襲いかかる。その結果、タイラーはある事件を起こす。

 

そんなタイラーにはエミリーという妹がいる。エミリーが第2部の主人公だ。タイラーの起こしたある事件により、心に傷を抱えてしまったエミリーの前に、事情をすべて知ったレスリング部のルークが現れる。そんなエミリーの心の傷を癒やすルーク自身もある事柄で葛藤を抱える人間であった、という話だ。

 

WAVES』でユニークなのが、劇中曲のプレイリストを作成してから、脚本が生まれたということ。シンガーソングライター的にかっこよく言えば詞先でなく、曲先だ。曲の雰囲気に当てはめるのも難しかったろうに、よくこんな器用なことをしたねえ、と、孫を愛でるような目線で感心してしまった。このサブスク時代では、映画と音楽も切り離せなくなっている。特に私なんかは気に入った映画があれば、すぐにサブスクで「映画名 プレイリスト」で検索して、BGMの余韻に浸りながら帰途につく。まるで見透かされたかのように「WAVES プレイリスト」で検索してやりましたよ。(そして、帰宅したあと、本作について調べていたら曲先ということを知って恥ずかしくなる)

 

音楽だけでなく、作中の色彩も非常に鮮やかだ。第1部は発色の良い赤と青を強調した映像表現が頭に残る。タイラーのイケイケな感じも色彩から伝わってくる一方で。2部は落ち着いたトーンだ。赤と青の混じった紫色が多いのが魅力的で、物語の調子が違うことを表現しているように感じた。

 

この映画のエンドロールで流れる音楽を聞きながらあることに気づく。音も色も波で出来ている。そして、人生だって波で出来ている。波で出来たこの世界で、この惑星で、一喜一憂する人生を音楽や色で救われている。美しい曲線ばかりの世界から逃れられないことをいっそ祝福しようではないか。