砂ビルジャックレコード

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それは点Pのように【リコリス・ピザ】

リコリス・ピザ』を観た。


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青春が遠くなってきた。青春が遠くなるほどに、青春を求めてしまう。大人になって1日のサイクルも決まると、きゅんきゅんが少なくなる。生活で摂取できないからサプリメントみたいに、きゅんきゅんを外側から摂取する。ピザなのだけれど。

 

リコリス・ピザ』はピザ屋の話ではない。でも、「リコリス・ピザ」というレコード店は実際に1970年代のアメリカに存在したらしい。そのレコード店が存在したハリウッド近郊の街が舞台の映画だ。高校のアルバム撮影アシスタントを務めるアラナは仕事中に、高校生のゲイリーに熱烈アプローチを受ける。10歳以上離れた社会人と高校生の恋愛模様はとにかくエネルギッシュなのにプラトニック。

 

とにかく突き進む子供のようなアラナと、大人びた感覚の持ち主だけど恋愛になると所詮高校生のゲイリーは、ベストマッチのようでチグハグ。運命の淵を移動し続ける点Pと点Qのように決して、一筋縄で交わらない。でも、恋路を見守る観客は、お互いが運命の人だと勘付きながら、そのプラトニックな展開にきゅんきゅんしたりモヤモヤしたりする。1970年代のアメリカの時代の流れに合わせて、計算できない展開が続く。作中に出てくるウォーターベッドが非常に気持ちよさそう。

 

そして、彼らの恋路のアクセントにある脇役陣のクセがえげつない。性欲の強さが顔に出るほど女の子大好きで、かつヒステリックな映画プロデューサーを演じるブラッドリー・クーパーとのパートは、一瞬見てられないほど胸が痛くなるし、ショーン・ペントム・ウェイツの魔法的な夜のシーンでは、あるクライマックスの後のアラナとゲイリーのシーンに胸を打たれる。狂乱的な70年代に狂乱的に恋をした二人は最後どうなるのか、きゅんきゅんに飢えている人にこそ見てもらいたい。気持ちが満たされたあとで聞く『リコリス・ピザ』のプレイリストがまたいい心の栄養になるのだよ。