砂ビルジャックレコード

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劇場で会いましょう(『劇場』観たマン)

『劇場』を観た。

 

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キャパの小さいシアターで演劇を一度見たことがあるが、その熱というか、かっこつけていえばグルーヴに圧倒されてしまった。同じ東京で生活していながらも、不思議な脚本をもとに、大きく声や身体を動かす彼らが眩しくて、きっと、アマゾンの奥地に独自の生活を送る民族を発見するってこういうことなのかな、とさえ思った。

 

『劇場』は、ピースの又吉直樹氏による2作目の同名小説が原作となった映画だ。売れない劇団の主宰をつとめる永田を演じるのが山崎賢人、偶然の出会いにより、永田と付き合うことになった服飾学生の沙希を演じるのが松岡茉優。基本的にこの2人の恋物語がメインとなる。「おろか」という劇団で成功を狙う永田と、彼の才能を信じて疑わない沙希の関係は恥ずかしくなるほど純粋で、ひとつ屋根の下で2人がふざけあうシーンもキラキラしている。夢見る永田と沙希は美しいのだが、しかし、永田がまあズークーなのである。

 

永田は、作品の産みの苦しみや、自意識過剰から生まれる自己劣等感などをとにかく沙希にぶつけまくる。それを必死に耐える沙希に知り合いの弁護士を紹介したくなる。原作を読んだときは、純文学的なダメ男という許容を感じたものの、こうやって映像化されると心にくるものがある。こんなん売れたら売れたで、数十年後に告発されるやつだよ、と社会的目線で杞憂してしまう。『劇場』の舞台が東京でなかったら、私はこの恋愛模様を違う文化として受け入れていたのだろうか。

 

この映画は面白い試みを行っている。劇場公開と同じタイミングでアマゾンプライムで配信を開始したのだ。きっとこのご時世で、映画館に行けない人たちも意識した施策だと思うが、配信で本作を最後まで観た私は、強烈に映画館で観たくなった。というのも、映画版は原作とは違ったエンディングとなっており、それが非常に"映画館"映えするのだ。あの大画面で、あの知らない人たちと、あの少しだけゆったりとした座席で、そしてあの人と、エンディングの瞬間を共有したくなる。いつか、ひとつ飛ばししなくても問題のない時代になって、ぎゅうぎゅうの映画館で本作を観たい。

 

最後に、『劇場』を観た方におすすめしたいのが、又吉直樹氏によるエッセイ「東京百景」だ。これは東京に関する文章が百編綴られているエッセイ集なのだが、そのうちの一編、「池尻大橋の小さな部屋」は、『劇場』の原型となったものだ。この「池尻大橋の小さな部屋」が元カノへの後悔をしたためたような内容で、読むたびにウルウルしてしまうのだ。(つまり『劇場』を観終わったあとに読み返して涙目になった)