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これだよドラン!(『マティアス&マキシム』観たマン)

『マティアス&マキシム』を観た。


グザヴィエ・ドラン監督&出演!映画『マティアス&マキシム』予告編

 

色々あった2020年の日本で、よかったことのひとつ。それは1年で2本もグザヴィエ・ドランの新作映画が映画館で観れるということだと思う。きっと世界中探してもこの日本だけに許された特権なんだと思う。予告編前に最近良く見る映画館の換気能力のビデオが流れる館内で本当にありがたい気持ちで、グザヴィエ・ドランが監督・脚本・主演の新作『マティアス&マキシム』を観た。

 

表題の通り、マティアスとマキシムという幼なじみが主役のドラマだ。共通の友人の妹・エリカの自主映画に協力した際に、2人はキスシーンを演じる。そのキスシーンからどこか2人が隠していた感情が徐々に流れ出す。だけどもマティアスには婚約者がいて、マキシムはまもなく仕事の都合でオーストラリアで飛び立つことが決まっていた。2人がそれぞれ抱く葛藤の先にはどんな結末が待っているのか、観客は見守ることになる。

 

今年の春に劇場公開された『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』が、ドランにしてはポップな作風だったのに対し、この『マティアス&マキシム』は、ドラン度100%といっても過言ではないほど、ドラン映画としての要素がこれでもかと詰まっている。たとえば『ジョン・F』では、今までのドラン作品では描かれなかった母との和解のシーンがあった。ドラン自身にも心情の変化があるのかと、やや驚きつつ観ていたが、『マティアス&マキシム』では、母と(やっぱり)大喧嘩。これこれ!これだよ!とニヤついてしまった。ドラン好きの我々は、美しい色彩描写と男性主人公による秘密の恋愛と母と大喧嘩しないと満足できない脳になってしまったのだ。

 

劇中のマティアスとマキシムのそれぞれの葛藤の描写も本人たちに思えば苦しい瞬間なんだけども、どこか愛おしくみえるのはなぜだろう。葛藤を彼らなりに爆発させるシーンに共感しつつも、一心不乱に湖を泳ぐなど、その感情の晴らし方の描写に惚れ惚れするし、湖の水面を始め、ブランコやウォーターベッド、ろうそくなど「ゆれ」ているもので彼らの心情を表現するのも憎い。

 

劇場で新作映画を見ると、この作品と同じ時代に生まれてきた幸せを度々感じる。まだまだドランの新作が観れる未来でありますように。