砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

口内炎上

気づけば口内炎が出来ている。その存在に気づいたときの落ち込み具合は意外と大きい。この痛みは人生で最も悩まされている時間のうちのひとつなんじゃないかと思う。口の中では、誰にも苦しみを共有できずに、ひとりで静かに数ミリ程度のクレーターと戦っている。まともな生活をしているふりをして。

 

生命活動での必須事項である「食べる」という行為に確実にダメージを負うのだからつらい。辛い食べ物と、思いっきり塩粒が露出した食べ物のことが好きなのにそっぽを向かざるをえない。理由なくそんな態度を取るものだから、彼らにとっては気分のいいものではないだろう。複雑な恋愛感情みたいなことを起こして、彼らに申し訳がない。

 

彼らのことをどうしても食べたい時は工夫を強いられる。たとえばカレーは口内炎が出来てないエリアにスプーンを忍ばせて、そっと押し込んで、引く。刺激に細心の注意を払っているから顔を歪ませながら片方の顎だけを使って咀嚼をする。ただ、大抵カレースプーンは口内全体を覆うので、何かしらが口内炎接触する。ちょっと涙目になってしまうから、周りから見れば「涙を流すほど美味しいカレー」と誤解されている。正しくは「美味しいけど痛い、やっぱカレーにしなきゃよかった」だ。

 

塩味の食べ物も躊躇が必要だ。心と体を堕落させてしまう食べ物の代表格、ポテトチップスだって、口内環境最悪の状態においては、ただの刃にすぎない。それでも食べたいときある程度細かく砕いて、接触面積を小さくしてから食べる。ただそれはチップスというよりフレークであることは、自分では内緒にしている。ああ、満足に堕落が出来ない!

 

こうやって小さな小さなストレスが溜まっているから、闇落ちしてやる!と思ったけど、ジョーカーにもなれることができない。人さし指で、無理やり口角を上げようとしたら、口内炎に触れて痛いだけ。笑うときもおちょぼ口になってしまう。おちょぼ口ジョーカーなんて、それはもうひょっとこだ。ジョーカーになれないイライラも積み重なったので、あの腰を振るダンスで気を紛らす。

 

そんなエブリディにおいて、最近は口内事情が悪化の一途を辿っている。ようやく蔓延っていた口内炎が治りかけたと思ったら、別の場所に小さい口内炎が生まれ始めるようになった。右側の奥側にできた口内炎を庇うために、左側を重点的に使っていたら、今度は左側にそれらしき痛みが現れて、その繰り返し。決して口内炎がゼロにならないのだ。

 

まるで守備が弱いプロ野球チームみたいに、永遠に1アウト1塁で気が休まらない場面が、口の中のスタジアムで再現されている。せっかくゴロを打たせたのにゲッツーが取れない。俺の口内野陣の守備に締まりがない。こういう締まりのなさからリズムが崩れて大量失点につながるんだ。うまくジュースが飲めなくてこぼしてしまったり、歯ブラシで誤爆したり。気づけば、5失点、6失点。今日も負けゲームだ。ピッチャーは悪くないよ。

 

いち早く、私の口内守備を整えてくれる有能コーチの招集が不可欠である。