『オールド』を観た。
源頼朝が幕府を鎌倉に開いた理由を知っているだろうか?いくつか要因があるけども、そのうちのひとつが地形面であった。鎌倉という町は、三方を山で囲まれている。残りの一方も海であり、山中の切り通しを通るか、海の方から入るか、選択肢が限られている。敵の侵入を防ぐには適している地形だったため「天然の要塞」と表現することが多い。
決してシャマランが鎌倉時代の歴史映画を撮ったわけではないのに、なぜ鎌倉の地理の話をしたくなったのかというと、『オールド』の舞台になるビーチの全体像が顕になったとき、「鎌倉幕府じゃん!」と思わず心の中で叫んでしまったからだ。リゾート地から車でしばらく移動したところにある美しい天然の要塞、もしくは天然の箱庭とも行っていいかもしれないビーチで不思議な物語が繰り広げられるわけだ。
みなさんご存知のシャマランなんだから、のどかな夏休みムービーを撮るわけがない。ご丁寧なことに、本編が始まる前にシャマラン監督直々のビデオメッセージがあり、シャマランワールドのはじまりはじまり。この舞台となるビーチは美しい自然に囲まれているが、何かがおかしい。なぜか時間が急速に進み出す。それも30分で1年のペース(!)で。切り傷はすぐに癒え、子どもたちはいつの間にか大人になる。老化を防ごうと、ビーチから脱出しようとしても、外には出れないし、案の定、携帯の電波は通じない。開放的なのに密室という異常事態。これぞ天然の要塞。そして、かなり重要な場面でシャマランが出てくるから、少しニヤニヤしてしまった。とっくにシャマランの手のひらの上だ。
このビーチに閉じ込められた主人公たちは、脱出を目指すが、迫りくるのは急速な成長/老い(=ゆるやかな死)だ。成長/老いによる体の機能の発達/劣化が、さらなる混乱を生み出したりして、もう大変。生まれてから死ぬまでに必ず起きる身体現象だから当たり前なんだけど、それが1日のうちに起こるだけで、こんなに恐ろしいとは。諸行無常のサイクルが早すぎるんだよ!
源頼朝が幕府を鎌倉に置いたのにも理由があるように、このビーチにも観光客がやってくる、ある理由が存在する。その最大の謎が物語のクライマックスに直結するのだが、その真相は映画館で観てほしい。約1時間40分の上映を終えた私はしっかり約1時間40分老化した。あのビーチでも鎌倉幕府でもなく、現代のシネコンから無事に脱出できたところに少しホッとした。