『SISU/シス 不死身の男』を観た。
穏やかにお行儀よく生活をしていても不条理な瞬間は訪れる。突然の大声や暴言だったり体当たりだったり、小さいけれど確実に日常に存在する外部からの脅威にノーガードでいると、あっという間に心を乱されてしまうし、回復までに時間を要する。そんな気持ちをポジティブに破壊してくれるのは絶対に負けることのないヒーローだったりする。
『SISU』は、そんな負けることのない主人公が大暴れする映画である。だって邦題には「不死身の男」のおまけ付き。シスって言っているのに死なないでドンパチやってくれるのだ。映画の冒頭でタイトルである「シス」に関する説明が入るがフィンランド語で、「困難な状況でも屈しない心」「厳しい場面においても勇敢な精神で居続けること」というような意味らしい。
まさしく、主人公である金掘りのおじいさんが90分間「シス」を体現してくれる。第二次世界大戦中のフィンランドでこのおじいさんはひとりで過ごしていた。そんな中、焦土作戦を実行中のナチス軍におじいさんは目をつけられてしまう。ただ、このおじいさんはとてつもない戦闘能力を持った元特殊部隊であった。ナチス軍からの様々な攻撃で命の危険に遭いながらも、歴戦のスキルで戦っていくというお話だ。
ナチス軍は、銃器に戦車、地雷にヘリコプターなど武器を大量に保有しているのに、おじいさん側の装備といえば、つるはしと馬、そしておじいさんに懐いている犬ぐらい。この圧倒的な戦力差であっても、アクションゲームのように攻略していく不死身のおじいさんが頼もしく見えてくるし、痛快に敵を突破していくシーンに思わずゲラゲラと笑ってしまった。この映画は章立てで進むのだが、特に第6章のタイトルに注目してほしい。ネタバレ覚悟の章タイトルをつけているなんてクレイジーだぞ。デュエルスタンバイ。
終盤にかけて、つるはしがだんだんと面白くなってくる。ナチス軍の戦車の装甲をひたすらつるはしで叩くシーンがあるのだけど、車内からは死神の足音のように聞こえてくる。そして対飛行機でも、このつるはしが大活躍するのだけど、それは映画を観て結果を見届けてほしい。あなたの町で、つるはしを背負っているおじいさんを見かけたら敵にしない方が安全だ。
フィンランド人が持っているSISUという考えがなんとなくわかった気がする。これから不条理な場面にあっても、いつでも相手をやっつけられるように、心の中に、つるはしを持った元特殊部隊のおじいさんを住まわせることにした。