砂ビルジャックレコード

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生きてるから狂ってられる(『狂猿』観たマン)

『狂猿』を観た。


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みなさんはデスマッチというものをご存知だろうか?デスマッチとは簡単に言えば凶器使用OKだったり、特殊なリングや環境で行うプロレスのことだ。大衆に耳馴染みのあるデスマッチといえば、金網デスマッチや、電流爆破デスマッチだろうか。デスマッチは、一般の方が思う以上にクリエイティブで多種多様なもので、上記以外の形式でポピュラーなものでいえば、蛍光灯デスマッチ、有刺鉄線デスマッチ、画鋲デスマッチなどであろう。そう、これらのデスマッチの前につくアイテムはポピュラーなのだ。だからデスマッチなのだ。まっとうな生活を送っている人であれば、「なんでそんなことすんの?」と言いたくなるが、そのイカれたフィールドで戦うプロレスラーにはダイヤモンドのような魅力がある。かくいう私もそのダイヤモンドに狂わされたひとりだ。

 

この『狂猿』は、そんなデスマッチのカリスマと呼ばれるプロレスラー・葛西純に密着したドキュメンタリーだ。葛西純の生い立ちから、プロレスラーそしてデスマッチファイターになったきっかけ、伝説の試合の裏側や、怪我からの再起をかける姿など、こんなところまで映していいのか?という場面まで克明に記録されている。『狂猿』というのは、クレイジーモンキーという葛西の二つ名から来ている。ここ、蛍光ペンで引くところ。漢字で書けるように。

 

復帰を目指す最中に、さらなる災難がふりかかる。コロナウイルスによる影響だ。客席を囲んだコンタクトスポーツであるプロレスは避けて通れない。体を作るためのジムも閉鎖され、モチベーションも下がっていく中でも、デスマッチのカリスマは前を向き続ける。

 

デスマッチ用の凶器を作るためにホームセンターに買い出しに行ったり、自宅で凶器をDIYする姿は、現代アーティストのようだ。Deathmatch it Yourself. その凶器がリング上で燦然と輝く時に、現代アーティストかつデスマッチファイターとして、葛西純が躍動するのだ。ヒントはビューティーM。美しき殺人者。

 

プロレス、それでいてデスマッチなのだから、死への危険はとてつもなく高い。映画では、そのハプニングの瞬間も収録されていて、ただのままごとではないことはわかるだろう。プロレスラーも、観客も生きてお家に帰るまでがデスマッチ。死を近くに感じれば感じるほど、生の実感が湧くから面白い。

 

生きてる人間は強い。2021年6月現在、コロナウイルスに完敗することなく、この国のどこかではデスマッチが行われている。このコロナ禍のプロレス興行開催について、葛西純がポロッと話した言葉が強烈に残っている。

 

「コロナで試合できてよかったじゃなくてコロナで苦しい状況だけど、それを忘れさせるほどの熱狂を与えるのが役目だろ?」

 

 だから私は葛西純が好きだ。