砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

漫才師走

 

  いや〜嬉しいね〜 生きてて良かったね〜

 

まさか、2004年のM-1GP決勝1回戦でのアンタッチャブル・山崎が板について発した最初の一言が、2019年の11月のある夜になってブーメランのように帰ってくるとは誰も想像できなかっただろう。 

 

全力!脱力タイムズで繰り広げられた奇跡の瞬間に、思わず声を上げてしまった。「アンタッチャブル復活!」という実しやかなネットの記事を信じてよかった。たまには本当の業界関係者が情報提供してくれてるんだな。

 

とにかく、彼らが同じ舞台の上に立っていることに嬉しくなって、彼らが圧倒的なパフィーマンスで優勝したM-1 2004を観たら、冒頭のセリフが僕を待ち受けていた。いやあ本当だよ、生きててよかったよ。アイドルの卒業やバンドの解散の報を聞いて泣いている誰かに伝えたい。生きていればそのうち、道は再び交わりだす。

 

ちなみに、そのネット記事にはこう書いてあった。「脱力タイムズでの復活した後、年末の特番THE MANZAIへの出演が決定している」未来予言書かよ。人生でこんなに業界関係者のリークに感謝したくなる日はなかった。 

 

そうして迎えたTHE  MANZAI。袖から舞台へ登場する2人を背筋をピンと伸ばして見た。誰も見ていないけど正しい姿勢でこの瞬間を見届けなきゃいけない気がした。あの観客に笑いが伝わる前に、柴っちょが一番先に笑い出すのが最高なんだよな。年末年始にかけての特番でどれくらい登場するか楽しみで仕方がない。テレビでなくライブでも見たいよ。時計は動き出したんだ。

 

アンタッチャブルの復活から漫才への興味がさらに湧いている。M-1 2019の準決勝がライブビューイングをやっていたので、観に行った。中継先の映画館の中でさえもヒリヒリした空気が漂っていた。本戦前の注意事項で、SNSでのネタバレ禁止を伝えるアナウンスがあって、出場者に対する愛を感じた。無責任なお笑いライターぶったツイートで彼らの人生を変えてしまうかもしれない。それだけ繊細な大会なのだ。

 

決勝進出者が発表されて、SNSでは「陰謀だ」「やらせだ」という書き込みを見て、にやつく。M-1予選とSNSの相性はやっぱり悪い。準決勝の熱演をすべて見た人たちにしてみれば、会場での笑いで選ばれたことがわかる9組だと思う。審査が透明化されたような印象。

 

決勝へ行った9組から感じるに、我々は新鮮さを求めているのかもしれない。昨年優勝した霜降り明星が時計の針を一気に進めてしまったからだ。若手漫才師ナンバーワン決定戦という当初の趣旨に立ち返る時が、近づいている気がする。

 

 

 

今も輝くClassic(『ドクター・スリープ』観たマン)

『ドクター・スリープ』を観た。

 

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「観たことがないけど、知っている映画」は誰でも持っていると思う。恥ずかしながら私は『インディー・ジョーンズ』や『天空の城ラピュタ』などを観たことがない。こうやって映画についてボソボソと書いているくせに、と見下される覚悟だが、いわゆる「観ないと人生損する」と形容される作品を全て見た人間なんているのだろうか。それはお互い様でしょ?と申し訳ない顔をしながら、その皮の下で微笑んでいる。

 

じゃあなんで観ないのか。『インディー・ジョーンズ』で言えば銃を使って敵をやっつける例のシーンなんかは有名だし、あの季節が来れば、僕のタイムラインは「バルス!」で埋め尽くされる。そういう印象的なシーンや、真似したくなる強烈なセリフがあることで、観たつもりになっている。空気感染みたいにいつの間にか摂取しているのが恐ろしい。

 

そんな『観たことがないけど知っている映画』の代表作のひとつに、『シャイニング』がある。壁の間に15cmほどの隙間があったら怖い顔して、顔を突っ込みたくなる。ひょっこりはんの始祖だ。ホテルによって精神が狂わされていくジャック・ニコルソンの怪演によって、あの顔が、あのシーンが無意識に刷り込まれている。その『シャイニング』の40年後の世界という設定の作品が、『ドクター・スリープ』だ。

 

『シャイニング』の頃、ブロンドの無垢な少年だったダニーは、アル中になってしまい、孤独な暮らしを送っていた。そんな中、「シャイニング」という超能力を持つ彼の前に、同じような超能力を持つ少女・アブラが現れる。一方、その頃、超能力者の命を奪うヒッピーのような謎の集団がその少女の行方を追っていた。

 

『シャイニング』は密室(ホテル)を舞台にしたホラーであるのに対し、『ドクター・スリープ』は、ダニーとアブラ、そして謎のヒッピー集団との関係性が主線となるダークファンタジーアドベンチャーのテイストで話が進んでいく。一応、続編だし、同じ世界の物語なのだが、ジャンルが全く異なるのでムズムズする。なんというか、『シャイニング』の難解さや芸術性を本作品で大衆性に変換したというか。

 

そんな考えを巡らせつつ、私はある結論にたどり着いた。『ドクター・スリープ』は『シャイニング』をサンプリングしたヒップホップ的精神の宿る映画なのではないかと。この映画では、前作をモチーフ…というかそのまま"サンプリング"したようなカットが多く見られる。

 

実は今夏、ロンドンのデザインミュージアムで開催されていたスタンリー・キューブリック展に行った。キューブリックの制作した作品が各ブースごとに区切られて展示されていて、もちろん『シャイニング』のブースもあった。メイキング映像が流れるそのブースには、例の斧、例のタイプライター、例の迷路模型が展示されていた。ほら鑑賞済みのあなたなら、なんなら観たことのないあなたでも、文字だけで、それがどのアイテムか思い出せるでしょ?それほど、衝撃的な記号を現在の僕たちに植え付けてきたのだ。

 

 

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そういえば『レディ・プレイヤー1』でも、『シャイニング』の換骨奪胎が行われていた。パブロフ的にシャワーカーテンが閉まっているだけでドキドキしていたことを思い出す。『ドクター・スリープ』を観て、改めて『シャイニング』という映画史に存在感を放つクラシックの偉大さを感じたし、それをベースに見事にエンタメとして昇華させた『ドクター・スリープ』のヒップホップ力にも脱帽だ。 どちらか観ているのなら、もう片方の作品もチェックすべきだろう。そこには発見があるはずだ。40年の時間旅行を簡単に出来てしまう僕たちは幸せものだ。

 

 

 

ロンドン降臨記5

(大分間が空いてしまった。。。。これで最後です。)

 

ロンドンの実質的最終日。もうロンドンでやりたいことを一通り成し遂げてしまったのでエクストララウンドに突入。優雅にカフェでコーヒーとイングリッシュブレックファーストを決めて、何をしようかダラダラ。

 

そういえばロンドンは、大英博物館の他にも無料で入れる博物館が色々あるとの情報を思い出した。サウスケンジントン駅で降りて、自然史博物館へ向かう。いきなりでっかい恐竜の骨格標本があって、それだけでもうドキドキする。これこれ、これが博物館だよ!館内は哺乳類や、昆虫の展示などいくつかのゾーンに別れていて、その中で地学に関する展示へと続くエスカレーターに心奪われる。

 

延々と続く上りエスカレーターは、地球の内部を模したオブジェの中を貫いており、階上へと続く。まるで自分がマントルへ突入するかのよう、心の中で「センター・オブ・ジ・アースじゃん!」と、博物館をテーマパークで例える品のない考えに苦笑する。

 

その地学のコーナーには火山灰や噴火のメカニズム、地震に関する展示があって、そのうちのひとつに、阪神淡路大震災のブースがあった。スーパーマーケットのようなセットになっていて、買い物中に地震にあったという状況のもと、実際にセットが揺れて当時の地震を体験できるという仕組みだ。

 

地震の国から来た者として、どんなものかと、そのセットの中に入る。ゴゴゴと不気味な音を立てながらセットの地面が揺れだす。地元の子供達はじゃれながらも、セットに備え付けの手すりに捕まっている。阪神淡路大震災を被災していないけど、こんな微々たる揺れじゃない。こんなんじゃ日本の地震に対応できないってロンドナーよ。これがプレートの狭間にそびえ立つ日本のプライドさ。

 

自然史博物館に行った結果、変なプライドだけが競り上がってきた私はこの度の最後の目的地としてカムデンタウンに向かった。カムデンのマーケットはいわば日本で言う原宿とか下北沢とか高円寺みたいな雰囲気がひとつにまとまった街で、古着屋さんが至るところに並んでいる。通りを歩いていたら、紛うことなきパンクスの青年たちがいて、テンションが上がる。モヒカンにスタッズにドクターマーチン!京都で舞妓を見かける訪日外国人の気持ちとつながった。

 

そのカムデンタウンの奥を突き進んでいると、目の引く人型の像が現れる。

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歴史を感じる町並みに突然現れるサイバーパンクな世界。ここはサイバードッグという、蛍光色などサイバーなアイテムを売っている服屋さんであった。中はクラブのようにブラックライトが光っていて、店員さんの衣装がピカピカ光る。バルコニー?みたいに2階から少しはみ出た足場からは、入れ墨や蛍光や取りまとった露出度の高い女性2人が踊っている。サイバーロンドンダンサーズだ。サイバーロンドンダンサーズは体をくねらせる。無意識に私の注目はそれに向かう。

 

 

あれ、初めてのロンドンなのに、この感覚は覚えがある。そうだ、これは新宿にある近未来施設だ。メタリックなロボットが動き出し、直線を補うように、女性たちは曲線を描き出すその世界だ。え、ロンドンって新宿だったの?都市と都市は地下でつながっているのか?僕が訪れている世界は表面だけだった?と思いを巡らせていたら、お尻に大きな衝撃があたる。目を覚ました僕は、シートベルトを締めていて、周りの人々がそわそわしだした。成田空港に到着したというアナウンスが聞こえて、僕はようやく帰りの飛行機に搭乗していたことに気づいた。