砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

底なしハチミツ沼(『プーと大人になった僕』)観たマン

プーと大人になった僕』を観た。

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ウィニー・ザー・プーというやつは恐ろしい。まだ幼かったぼくたちの前に現れては、個性が強すぎる彼の仲間たちとともに悠々とした生き方を提示してくる。小脇にはハチミツの壺。ぼくたちが1年間ハチミツを食べられなかったことを知っているかのように腕をぐぐっと壺に突っ込んでは顔面に塗りたくる。大人への1段目に登場するハニーrトラップ。こいつは思ったより強かなやつだったんだって、大人になってから知る。

 

いつしか大人と呼ばれる段数まで上った私に、私たちにプーはとんでもない仕掛けを施す。くまのプーさんが実写化だと?人間であれば捕まってしまうファッションスタイルのぬいぐるみが実写化されるなんて。大人になり、父になったクリストファー・ロビンがプーと再会する物語だと?なんだよそれ、めっちゃ面白そうじゃねえか。あまりディズニー映画は観ない私だけども気になって観に行ってしまった。

  

中間管理職となったクリストファー・ロビンに突如、自らの部署の存続をかけたプレゼンという課題が降ってくる。プレゼン発表は月曜日だ。家族と過ごすはずの休日を返上して、資料作成に取り組むクリストファー・ロビンだが、そんなときに限って黄色い悪魔は微笑む。プーと再会することから物語が大きく展開するのだが、プーがどうしても「学生のときにサークルにいたメンヘラ元彼女」にしか見えなくて仕方がない。

 

もう社会の一部となり働くロビンと、ぬいぐるみとして永遠にそこにとどまり続けるプーではもう同じステージではない、とロビン自身も思ってたはずだ。それなのにプーとやらは「何もしないのが一番だ」と言い出すし、「仕事は風船より大切なもの?」という、綿綿の思考回路から導き出されたえげつない質問をしてくる。そんなプーのマイペースにハマってしまいずぶずぶと、はちみつの沼に落ちていくロビン。

 

ああ、これは美しい堕落との再会だ。この現代において息苦しい社会から逃げ出す手段はもはやない。浪費、浮気、Webでの誹謗中傷書き込み。このような醜い解消法に手を出しても、バレてしまい倍になって返ってくる。ただ、ただひとつだけの非常口は、、、プーだったのだ。プーであれば、森の中だから浪費はしないし、無機物なので「浮気」ではない。誹謗中傷なんて100エーカーの森で書けるものか!かつてのメンヘラ恋人のようなプーこそがロビンを救う蜘蛛の糸もとい、滴り落ちるはちみつの糸だったのだ。

 

そういえば、ぼくが小さい頃によく振り回していたぬいぐるみはどこへいってしまったのだろう。

薄皮一枚のフィクション(『パパはわるものチャンピオン』観たマン)

パパはわるものチャンピオン』を観た。


映画『パパはわるものチャンピオン』予告編

 

プロレス好きで、映画好きな私なので、プロレス映画というのはハンバーグカレーみたいなものだ。しかも主演がプロレスラー、しかも"100年に1人の逸材"棚橋弘至がやるというわけだ。和牛ハンバーグが大胆に乗ったカレーだ。食べない訳にはいかない。

 

そして棚橋弘至演じる大村孝志の息子役は寺田心くんだ。そう考えるとカレーは髪の毛のように比較的サラサラなのだろうか。食べやすいけど喉奥からぐっとスパイスが効いてくるような。きっと手間隙かかったものだ。そんなハンバーグカレーが1800円なら食べにいくでしょ?老舗の洋食店のハンバーグカレーと考えてご覧なさい。いつのまにかお腹が減ってきたが、これは映画だった。

 

息子にプロレスラー、しかも悪役であることを内緒にしてきたかつてのエースレスラー・大村だが、ひょんなことからその正体が息子にバレてしまう。ピークを過ぎた往年のレスラーが再起を図って挑むという構図はミッキー・ロークの『レスラー』を彷彿とさせるが、刹那的で破滅的なランディ・ロビンソン(孤独に命を燃やす感じもたまらない!)と違い本作の場合は、レスラーのとともに一人の父親であり会社員という属性が非常に強く、それゆえ、大村が抱える葛藤も、我々に身近なところにある。社会の一部としての悪役レスラーであるゴキブリマスクが丁寧に描かれている。

 

プロレスラーがプロレスラー役としてプロレス映画をやっているのだから、映像としてのプロレスはまごうことなき本物の迫力だ。四方を観客に囲まれるスポーツでありながらも、会場では体験することのできないアングルで一進一退の攻防が観れるのは映像ならではであり、かつて映画館でやっていたG1 3Dが生かされていたのならいいのになあと思ったり。

 

 

プロレスについての知識がある人間にとっては、もしくはこの間の情熱大陸を観た人にとっても少なくとも「いや、大村って棚橋そのままやないかい!」とつっこんでしまいたくなる。奪われた団体のトップの座、頂点を取り戻そうもがく美しさ、膝の激痛、家族への愛。なにもかもが棚橋だ。そのキラキラしたものの裏には圧倒的な努力と気力が潜んでいることを僕らは知っている。

 

そんな超人、棚橋弘至に、大村孝志=ゴキブリマスクという薄皮一枚ほどしかないフィクションをかぶせることによって、プロレスを知らない人たちであっても、大村(=棚橋)に対する感情移入がしやすくなっている。理想と現実、エースとジョバー。ひとりの父親と社会のうちのひとり。そんなものさしの使い方を知って、自分の人生にあてはめてみる。気づかぬ間にわたしたちも社会で生き抜くためのマスクをかぶっている。

 

 

なんかいろいろ(KOCとか岩手旅行とか)

ゲッターズ飯田の占いを信じるとすれば、私はこれから人生の冬の時期に差し掛かるらしい。恐ろしい。これからもっと人生が寒くなるというのか。まだ、西麻布の隠れ家的バーに行ったこともないし、パリッとしたスーツも着てないし、キリの良いチャンネル登録者数もいない(そもそもチャンネルはじめていない)。耐え忍んで伝統工芸でも極めてみたい。

 

キングオブコント2018、結果からいえばハナコの圧勝であった。煽りVであらかじめ自分らのコントスタイルの手の内を明かした上で優勝するというなんともかっこいいことをやってのけた。2人の掛け合いの途中から3人になることで、畳み掛けを生みやすくしている。よくトリオで使われる「小ボケ」「大ボケ」という概念を壊してしまったのだ。「先発ボケ」「切り札ボケ」という名称が好ましいか。

 

チョコプラは2本めのネタで、小道具に頼りすぎてしまった。「昔気質の大工なのに、働き方が超現代」というネタだったが、そもそも、このコントをどう見たらいいかわからないまま終わってしまった。カタカナビジネス英語を日常でも使うような人が会場にはいなかったのは考えなかったのか。あんなん、30代のサラリーマンにやったらもっとウケそうなのにな。しかしあんな小難しいことコントもやる一方でTT兄弟も発明するなど、とにかく多彩だ。多彩のTだ。

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個人的にはGAGの正統派トリオコントも好きだ。童貞男子学生の青春を描ききったのは素晴らしい。大人の女性と苦味を知って少し成長するあの時間に文学性さえ感じる。居酒屋の美人社員キャラクターのクオリティもすごいリアリティ。髪色やアイコスもそうだが、彼女の哲学まで透けて見える。あの居酒屋、絶対お刺身が美味いって。きっちりコンプライアンスも守っているのに点数低いなんて。

 

ザ・ギースのネタももう少し得点行っても良かったのかなあ。しっかり転調が効いていたし。その部分で緊張を煽ってからの「作り手の想い」が再度浮かび上がる瞬間は今でも思い出してしまう。サスペンスをコントにしているのだし自然な展開だと思うんだけどなあ。

 

ひとつキングオブコントに言いたいとすれば、 決勝進出者当日発表の件だ。賞レース大好き野郎からすれば、意味がわからない。M-1の順番の当日決定もそうだが、誰がどの順番でやるというのを想像して、誰が勝つのか山場がどこにくるのかを想像するのが楽しいのに。

 

そんなイライラを心に残しつつ、9月の連休には岩手は花巻と平泉に行っておりました。東京を離れてゆっくりしたいというそこそこランクのキャリアウーマンみたいな欲望が芽生えてしまったものですから、それを叶いにいってきたわけです。

 

花巻では宮沢賢治記念館へ。宮沢賢治記念館は山の上にあって、駅から徒歩で行くと数百段の階段を昇っていったところにある。

 

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この1段1段に「雨ニモ負ケズ」の文字がついており、昇りながら彼の詩を堪能できるというつくりになっている。しかし、残り20段程度で詩が終わってしまって「お」「つ」「か」「れ」「さ」「ま」「で」「し」「た」となっていた。太ももの乳酸にも負けずここまで来たというのに。

 

 

平泉では世界遺産巡り。駅にレンタサイクル屋さんがあって、そこで自転車を借りて周辺施設をめぐる。久々の自転車におろおろしながらも、平坦な道の多い平泉を疾走する。気候も過ごしやすかった。北側っていいよね。

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