いきなりエルヴィス【プリシラ】
『プリシラ』を観た。
商品の比較サイトを多用している。値段やサービスなどいくつかの項目に分かれた表を見ながら何が最適解なのか検討が止まらない。優柔不断な自分が嫌でありながらも迷う幸せを感じている。人生では比較して最善の選択をとるという行為自体が出来ない場面がよく存在する。
実話が元になっている『プリシラ』では、人生の序盤にもかかわらず主人公にとって重要な決断が突然やってくる。親の仕事の都合で西ドイツに暮らしていた14歳の少女プリシラの前に現れたのは世界的大スターのエルヴィス・プレスリー。兵役中でたまたま西ドイツにいたエルヴィスと出会った二人は徐々に関係を深めていく。
この映画を見るまでプリシラという女性のことを知らなかったがなんとも数奇な人生だ。まだ恋愛をよく知らない年頃の人間が、世界中から愛される歌手と恋に落ちるって。恋愛はタイミングっていうけれど、なんとも早すぎる。最初からラスボスと対峙するようなもので、出会ったが最後。付き合うも別れるもプリシラは選択をしなければならない。たしかにチャンスは平等だけど残酷。
プリシラが選択したあとに待ち構えている展開も考えさせられる。かたや学生、かたや大スターで、もともと違う世界にいた二人が強いつながりを持ってしまったからには歪みが生まれるわけで、学校に通いながらも、華やかな時間を知ってしまったプリシラの苦悩が描かれていく。
ハッピーエンドという言葉はあるけど、それはあくまで、その”物語”における最後のページが幸せだったわけで、実際の人生ではその先が続く。「プリシラ」でもハッピーエンドで終わってもいい瞬間が何度もあるけど、そんなキレイなものではない。エルヴィスに振り回されるプリシラの空虚な感じが、囚われたプリンセスのようだった。
一方でエルヴィスの苦悩も見逃せない。大スターならではのプレッシャーによる弊害がプリシラにも及んでいく。果たしてこの二人は一緒に歩むことは幸せだったのか?当時とは違った時代に生きている自分が判断することはおこがましいけど、シンデレラストーリー的な構図にも関わらず、何か素敵なロマンスと手放しでは思えない。彼らの人生の中での美しい瞬間は描かれているけど場面として記憶に残っているのはそれぞれが抱えていた孤独な表情だ。
ただ、この『プリシラ』におけるラストシーンは、自分にとってはハッピーエンドとして捉えた。大きな幸せを続けることの難しさを痛感した。