砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

アウターとバー

2024年になった。年末に買った新しいアウターをひたすら着ながら外出して年末年始休みを過ごしていた。とはいえ、旅行などはせずに都内で友人と会ったり、気になった場所へ行っている程度ではある。

 

年末年始の飲食店は閉まっていることが多い中で、自分がずっと行ってみたかった近所のバーは年末ギリギリまでやっていて、これも何かの良きタイミングと思って入ってみた。間接照明がいかにもバーな感じのその店のカウンターでは男女1組だけお客さんがいて、英語で会話をしている。買いたてのアウターを脱いで、ひとりでしっぽり飲みに来た客ぶりはじめる。

 

あまりバーに行かないので、勇気を持って入店していた。足元を見られそうな気がして緊張していたけども店員がカジュアルに話しかけてきたので、少し落ち着く。バーに持っている苦手イメージの第1段階がほぐれる。

 

私が一杯目を飲み始めたときぐらいに、常連と思われるお客さんがやってきてボックス上のテーブル席に座った。英語しか聞こえなかった店内がにぎやかになり始める。その席の人々は、すでに飲んできたようでだいぶご機嫌だった。着席してから数分でしっかりとした下ネタワードが熱を帯びて店内に響き渡る。

 

私はすでにバーの客ぶっているのでクールに気取らなければいけない。それでもかなり直接的な言葉たちが通り過ぎていく。私より先に入店していた男女がお会計をしている。大人っぽいバーの雰囲気を作っていた彼らが出て行ってしまう。勝手に仲間と思っていたのに由々しき事態だ。ゆっくり食べようと思っていた手元のミックスナッツの消費スピードが早くなる。

 

ボックス席だからか、彼らのいる席がラジオブースに見えてきた。嬉々として露骨な単語を繰り出すあの中年男性がメインパーソナリティーなんだろうな。会話に参加せずずっと笑っているアイツは放送作家に違いない。ふと観察し始める自分が下ネタコミュニティラジオの公開放送を観覧している客に見られていないか?とも思い始めた。冷静になって、店員さんにおすすめのお酒などを聞いてやり過ごす。

 

追加で1杯お酒を飲んだところでバーを出る。下ネタコミュニティラジオはCMなしでノンストップで放送されており、お酒を飲みきるまでしっかりとリスナーになってしまっていた。バーぶった客の顔で。面白い性の失敗談とか聞けたら儲け物と思っていたけどそんな話もなかった。そりゃ年末だから色々ぶちまけたいよなと思いつつ、行きつけのバーを見つけるのにまだまだ時間がかかる気がした。買いたてのアウターは冷える夜からしっかり私を守ってくれた。