砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

映画って最高だな(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』観たマン)

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観た。

 

www.youtube.com

 

 

待ってた。このときを待ってた。クエンティン・タランティーノ監督が9作目に「シャロン・テート殺害事件」をベースにした映画を製作中であるというWebニュースを読んだときから映画館で見ることを夢に見ていた。シリアルキラーに多少興味のある私からしたら、タランティーノがこの事件を描くなんて!とワクワクもんである。

 

タランティーノ作品だし、日本にも馴染み深いブラピとディカプリオの初共演作、ヒロインはマーゴット・ロビーと、事前知識を持たずに、ふらっと行っても楽しめる大作にはなっているのだが、ここのページに行き着いたあなたには、できれば事前知識を入れた上で本作を見ていただきたい。

 

物語の中心となる「シャロン・テート殺害事件」は今から50年前の実際にあった出来事だ。当時のハリウッド女優 シャロン・テートがロサンゼルスの自宅で友人たちとパーティーをしている最中に、侵入してきたカルト教信者に無残に殺されてしまう。シャロンは当時妊娠中だった。残虐な殺害を実行したカルト教信者には教祖がいて、それがシリアルキラー史に名を残すチャールズ・マンソンである。ヒッピー文化が流行っていた当時、家出の女性などを集めコミューンをつくり「ファミリー」を形成した男である。いつの時代も「ファミリー」でくくられる集団はだいたい恐ろしい。普遍の真理がそこにある。

 

この辺りの細かい史実や背景について知りたい方は、書店で映画秘宝を買うことをおすすめする。(少なくとも『OUATIH』を学ぶ上で唯一無二な教科書である!)

 

『OUATIH』はこのシャロン・テート殺害事件にむけて、ゆっくり時計の針が進んでいく。1969年のある2日間と、1969年8月9日の出来事を語った作品だ。ヒッピーが蔓延るハリウッドの映画人たちの日常と、そこに忍び寄るチャールズ・ファミリーの影が淡々と描かれていく。

 

初共演のディカプリオとピットは、2人で1人である。ディカプリオ演じるリック・ダルトンのスタントマンが、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースというわけだ。落ち目の俳優となったリックが、再起をかけて、もがくというのがストーリーの本線となる。

 

ここの関係性でいえばリックとクリフの友情が美しい。ビジネスパートナーでありながらも、リックの運転手役を買って出たり、リックの家のテレビアンテナ修理をたやすく引き受けたり、リックの出演したドラマを家で一緒に見てくれるクリフのやさしさに心が安らぐ。おじさん2人が厳しい映画業界の中を、たくましく生き抜く姿がそこにはある。俳優とスタントマン、お互いに認め合う職人同士の絆がなんだか微笑ましい。

 

ハリウッドが舞台で、主役が映画俳優、(なんてったって監督がタランティーノ!)なもんだから、映画愛に満ち溢れていたシーンが多い。リックの”映画内映画”もいくつか流れるのだが挿入される本数が異常に多い!もちろん、元ネタはあるのだけど、このために何本の架空の映画やドラマが出てきたというのだ。リックという俳優のキャリアを描くためのディテールとはいえ、その"映画内映画"をしっかり見たいよ。リックのウエスタンにシビレたいよ。フィクションの中で、更にフィクションがたちのぼり、気づけば限りなく、現実に近い虚構の世界が出来上がっていく。この虚構の世界に2時間半入り浸ることのできる幸せ。映画愛という抽象的なものを映画にしたのが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だと思う。やっぱ映画って最高だな。

 

そして、物語はあの夜へと向かう。リックの家は、シャロンの隣にあって、ここで物語は大きなひとつの塊になる。バイオレンスに定評にあるタランティーノ作品で、この「シャロン・テート殺害事件」がどう描かれているか、という最大の関心事に対し、彼はとんでもない答えを突きつけてきたこれほどまでに心震えるどんでん返しがあったであろうか。

 

Webニュースを読んだ時の夢は叶ったが、観終わって、新しい夢が出来た。アメリカに行ってタランティーノファンで埋め尽くされた映画館で(できればロサンゼルスがいい)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をみんなで観て、このクライマックスシーンで爆笑することだ。痛くなるほど手をたたきたい。喉が枯れるほど歓声をあげたい。ポップコーンの雨も降らせよう。極東の映画館で笑いを殺すのに必死だった。