砂ビルジャックレコード

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あなたの人生はドラマになります(『グレイテスト・ショーマン』観たマン)

グレイテスト・ショーマン』を観た。


映画『グレイテスト・ショーマン』予告

 

周りの友人達が感想を興奮っぷり漏れっぱなしで喋っているのを聞いてて行かねばと思ってたんですが、ようやく完全に遅ればせながら観たのです。この作品が作られたのと同等の熱量が我々に伝わってくるそんな100分間。

 

実際に存在した、P.T.バーナムという興行師の一代記が本筋である。調べてみれば、心理学用語の「バーナム効果」の語源となった人物だそうな。こういうところで自分が知っていた知識がリンクするのが面白い。成功を勝ち取るために色々な事業に手を出したバーナムはショービジネスの世界にたどりつく。ショーマンとしてサーカスを立ち上げ、身体的に”少数者”とされたもの達を”スター”に磨き上げる展開は、いかにもアメリカらしくてすがすがしい。

 

と、同時にバーナムのモチベーターっぷりに尊敬する。ずっと日陰を歩んできた団員たちを鼓舞する言葉の数々。その言葉が説得力を持つのは、彼の反骨精神や失敗が下地となっているからだ。そう考えると、豪華なイメージと裏腹にとても泥臭い映画に思えてくる。

 

私だってバーナムにモチベーションをあげてほしいときだってある!例えば「些細なものと思っているかもしれないけど、あなたの人生はドラマになります」なんて言われれば、よろこんで空中ブランコに挑戦してやりますよ。これがバーナム効果か(?)

 

「よし、私も!」と前向きな気分になる重要要素として、この映画がミュージカル映画だからというのもある。ミュージカル映画ってもうそれだけで顧客満足度高くなるんだからおぞましい。現実では歌い出すことはありえないなんて言っちゃおしまいなんだけどね。完全に虚構されているからこそ映像の中の世界は美しいのだが、虚構を作る過程も美しいと感じさせたことがある。

 

グレイテスト・ショーマン』は宣伝用として、YouTubeに舞台裏映像がアップしているのだが、そのうち、本作のメイン曲である"This is me"の歌合わせをしている動画がやべえのなんのって、むしろこれを観てほしいのが私の願いかもしれない。本編のきらびやかに彩られた”This is me”も心躍るのだが、違うベクトルで心が熱くなる。5分だけ時間を頂戴くださいませ。

 


The Greatest Showman | "This Is Me" with Keala Settle | 20th Century FOX

 

キアラ・セトルの表現力が徐々に、ヒュー・ジャックマンはじめスタジオの人々の心をひとつにまとめあげていく。目に見えないのにそれがわかるし、何よりひとつになった瞬間がたまらなく気持ちいい。こんな映像は虚構で作り上げることは不可能だろう。たった5分の動画だが、ドラマのエンディングを迎えたような爽快感であり、無敵感だ。

 

 

なんかいろいろ(8とか最近読んだ本とか)

私の応援する横浜DeNAベイスターズがまさかの8連勝!ついに一週間負け知らずで移動日を迎えるわけですが、全くこういう状況に慣れていないので、そわそわしているのが世のベイスターズファンの心情なのではないでしょうか。前半戦首位から最下位に転落した経験もあるので、この先どんなことが合っても動じない強さを持っているのが私たちのメンタルですが、それにしても8連勝は恐ろしい。京山くんも無傷の3連勝!昨年は横浜スタジアムに足を運べなかったのでなんとか時間をつくって応援に行きたいものです。

 

8で言えば、iPhoneが8になりました。3ランクのジャンプアップです。Xにすれば倍々ジャンプだったわけですが、このタイミングで8の新色(しかも赤!)が出るというのだから乗らない手はないということで、赤林檎男と相成りました。しかし、このままiPhoneが進化し続けると一体どこまで数字が続くのだろうか。まだiPhone天下だからこのままどんどん数字が大きくなることは考えられるわけで、3代目J Soul Brothersなんかめちゃくちゃ優しく聞こえる。iPhoneワンハンドレッドとか、物体として存在するのでしょうか。と同時に数字の大小で、人間の格差が生まれるみたいなことが起きるんですよ。やーいやーいお前の母ちゃんiPhone4とか、お前の母ちゃん3G回線!とか、テクノロジーが近くの人間関係にもたらす影響をひしひしと感じております。

 

三軒茶屋のシアタートラムで、中村蒼、美波の二人芝居「悪人」を観る。実は原作も実写化映画も観ていないんだけど、なんだか二人芝居ということに興味を持って観劇。ヒリヒリとした逃避行の物語に魅入られた。もっと色々な背景があることで加害者と、出会い系で知り合った女は立体的に浮かび上がってくるのだろうけど、社会の中の二人ではなく、単にこの世界で出会っただけの二人の感情を主観的に描くことで神秘性を帯びてくる。大晦日の海辺のシーンはその神秘性が充分に出た場面だった。

 

西加奈子さんの新著「おまじない」もしっかり読了。

おまじない (単行本)

おまじない (単行本)

 

 様々な女性を主人公にした8つの短編小説集(ここにも8が!)各短編の主人公たちは個性的な女性だらけなのだが、一貫して描かれているのは思わぬところに潜む「抜け穴のような男」の存在である。社会や人間関係に疲れて行き詰った女性たちのガスをあっという間に抜いてしまう不思議な男性たち。

 

これは別に男性でも女性でも自分に投影することが出来て、心に潤いがなくなってしまったときになぜか、異次元の方向からやってきたものでその凝りが一瞬で飛んでしまうときがある。それは、親戚からの言い間違いのあるメールかもしれないし、Twitterに現れた陽気に踊る外国人の動画かもしれない。そういう些細な救いの瞬間を、ロマンすぎない程度でロマンチックに描いているのだ。読み終わってしばらく経つが、たまに思い出し笑いしてしまっている。

 

そういえばもうすぐ短歌の新人賞2本の締め切りの季節である。私はまだ方向性を見いだせぬまま、ぼーっと一日を過ごしている。いい加減箔が欲しいよね。箔があればなんか飛び立てそうな気がする。履歴書とかに書きたい。

 

 

 

 

BastardのRestart(『クソ野郎と美しき世界』観たマン)

クソ野郎と美しき世界』を観た。

 


「クソ野郎と美しき世界」予告編!

 

あれから僕たちはテレビを、テレビ業界を、閉鎖的な物だと思うようになってしまった。コンプライアンスという重しをのされて、水分が抜けていくそれの状態を思えば、まだ見ぬ世界に足を伸ばすのは当然だろう。この社会はひとつだけで成り立っていないということ。

 

クソ野郎と美しき世界』はオムニバス3本とその3本のエッセンスが、ごった煮のように混じり合う1本の計4本で構成されているものだ。主役は稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾のご三人。草彅剛の彅は弓へんに前に刀。いつまで機種依存文字やねん。

 

『ピアニストを撃つな!』は吾郎ちゃん×園子温監督。なんだろう園子温はもう「園子温」というジャンルだ。いくつかの構成要素さえ満たせばあなたも簡単に園子温になれるはず。おもしろいことに「園子温」にピアニスト吾郎ちゃんのキザっぷりがマッチする。「園子温」特有のくだらなささえ薔薇の香りが立ち込めるかのような世界にしてしまうのは吾郎ちゃんだからである。サンキューゴロー。

 

『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』は並行世界の香取慎吾を描いたかのような作品だ。元歌手で画家となった香取慎吾の目の前に、歌を食べて生きる歌喰いという少女が現れる話だ。歌喰いに歌を食べられると、“なくなってしまう”のだ!(そして、彼女の臓器でクソとなる)手荒い職務質問を受けるサラリーマンや、東京の生きづらさを愚痴るロシア系の女など、東京が現在進行系でディストピアとなりつつある都市として描かれている。その都市に生きる慎吾ちゃんと歌喰いのやりとりは微笑ましく、閉鎖的な社会の唯一の救いのようだ。

 

『光へ、航る』はツヨポン×尾野真千子×太田光監督の作品で、3作の中で最も現実的な展開で描かれている。移植された息子の右腕を探す(ここだけ読むとジョジョ感がすごい)ロードムービーだ。太田光監督らしく時事ネタや掛け合いの妙を盛り込みつつも、ヒリヒリとした人間臭さが表現されている。地図に関するシーンを入れるなど、ニヤッとさせるアクセントも盛り沢山だ。

 

この3作の登場人物が混じり合ったのが『新しい詩』というミュージカル調のもので、それぞれの作品で語られなかった部分が明らかになり、物語がひとつにAssembleされていく。LEVEL5.5番地のような空気感で、溜め込まれた鬱憤を発散するがごとく動き回る彼らに思わず私の体もリズムをとる。牢から脱出したことに対する決意表明のような作品だ。

 

どうしても過去を知りすぎている僕らは、その物差しで何かを見出そうとする。それは彼らがスターであるからだ。クソ野郎となった彼らには、失うものなどなにもない、というよりもうとっくに失いきった。ただ、クソ野郎(Bastard)になってもBa"star"dの資質は決して消えないのだ。さあ、クソ野郎たちの再起動を祝福しようではないか。