砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

クローズドクエスチョン(『17歳の瞳に映る世界』観たマン)

『17歳の瞳に映る世界』を観た。


www.youtube.com

 

質問は大きく分けて2種類あるということをコミュニケーションの本で読んだことがある。オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンだ。オープンクエスチョンは、「どんな食べ物が好き?」や「このニュースについてどう思いますか?」というように、回答者が自由に答えられる質問であるのに対し、クローズドクエスチョンは回答の選択肢が決まっている質問だ。「辛い食べ物は好きですか?」「このニュースはあなたにとっていいニュースですか?」と、YesかNoなど、明確に答えることを前提としたものだ。

 

この『17歳の瞳に映る世界』は、邦題の通り、17歳が主人公の映画なのだが、原題は"Never Rarely Sometimes Always"で、頻度を問うクローズドクエスチョンの選択肢が、そのままタイトルになっている。

 

主人公のオータムは高校生。あるとき、自分が妊娠していることに気づく。彼女にとって望まない妊娠だったため、中絶することを決意するが、彼女の住むペンシルバニア州では、親の同意なしの中絶が出来ないことに絶望する。そこで彼女は同じバイト先でもあるいとこのスカイラーとともに、親の同意なしでも中絶ができるニューヨークで手術するため、なけなしのお金で出発する。ただ、彼女らの計画は行ったり来たりで、思うように事が進まない。一方で、お腹の命は徐々に大きくなり、中絶へのタイムリミットが迫る。本来であれば祝福されるであろう妊娠が、彼女には、まるで呪いのように重くのしかかる。

 

それでいて、作中の男性がすべてクズ役なのもやるせない。クソみたいな父親に、セクハラしてくるバイト責任者、ニューヨークの地下鉄で突然現れる露出狂に、スカイラーをナンパしてくる若い男。男たちは自分の欲望のままに動くから、巻き込まれてしまうオータムとスカイラーに極東のヒョロい男はどんな言葉をかけていいかわからない。こんな生きづらい世界を耐え抜いて、知らない間に彼女たちは大人になっていくのだろうか。

 

中絶手術だから、当事者の体には相当な負担がかかる。そのために、担当医は、事前に質問を行う。このときに原題の"Never Rarely Sometime Always"の4択質問が何度も繰り返される。中絶する目的を果たすための行為なのに、このクローズドクエスチョンがリフレインされる。自由に答えられないこの類の質問が、自由を失いかけているオータムの精神をますます追い詰めていく。

 

17歳という大人でも子供でもない年齢だからこその、知識の無さ、中途半端な自由による身動きのとれなさや、息苦しさがリアルを持って迫ってくる。セリフ無しで彼女たちの表情だけを切り取ったカットも多く、疲弊していく彼女たちの気持ちを想像せずにはいられない。