砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

なんかいろいろ(ロロとかジム・ジャームッシュとか)

また緊急宣言か〜い!と心のなかで椅子に座っていた私はそれごと転倒していた。緊急と通常がこんなにもスイッチで繰り返される今年を考えると、交感神経と副交感神経を交互に刺激しているみたいで、サウナに入っているみたいだ。本格的にサウナみたいな気候になってきたし、とうとう日本は、ととのおうとしている。しっかり外気浴の時間も確保したい。気が早いけど今年の漢字は「サ」だ。清水寺に毛筆で書かれることを祈っている。

 

劇団 ロロのいつ高ファイナルを見に行った。いつ高とは「いつだって可笑しいほど誰かが誰か愛し愛されて第三高等学校」の略で、名前の通り、高校を舞台にした劇だ。連作になっており、たとえばVol.1は昼の教室、Vol.2は夜の教室、Vol.8は校舎の屋上と、学校のあるワンシチュエーションで繰り広げられる。高校演劇大会の出場ルールに則っており、仕込みの時間10分と本番60分で構成されていて、その脚本も無料公開されているのも特徴だ。

 

今回は、そのシリーズ完結編Vol.9とVol.10だ。チケットを買うと、Vol.1〜8までがWebで見れる特典がついており、しっかりとそれまでの公演を予習してから望んでいった。好きな登場人物は(逆)おとめとシューマイ、将門だ。

 

はじめての、生いつ高。目の前には、がらんとした舞台しかなく、開演時間になると早速セットの設営が始まった。Webでのアーカイブには、この様子はなく、リアルタイムでいつ高に出会った人たちへの特典だと感じた。出演者(すでに、いつ高シリーズに登場していた出演者ばかりなのでひとりひとりがもうアイドルだ)たちが、テキパキと世界観を作り上げていく。大きいセットから、物語の展開のきっかけのひとつとなる小道具まで、緻密に準備が終わると、目の前には、夏が始まる1秒前のプールサイドが現れていた。

 

プールサイドで、あるものを探しに来た瑠璃色と、普段はメガネを掛けているのに裸眼で、なぜか泥だらけのモツの会話から、話が広がっていく。なんとなく奥底まで知らない同学年の生徒たちが、各々に秘密や個性を開示しながら、わかり合っていく様子は本当に理想だ。単純に「こんな学校生活だったらいいな」と思ってしまうほどピュアだ。

 

そして、Vol.10の「とぶ」は体育館の一角が舞台。映画撮影に励む将門は体育館に教室を再現されるために、机を運んでいく。セット運びを手伝う群青との会話から始まる。セット設営までも劇中で行うし、将門が撮ろうとしている映画は、Vol.2の(逆)おとめの生態が元ネタになっている。体育館の半面では、シューマイ(バスケ部だった!)が華麗なプレーをしているようで、この連作を見たからこそ、ただの放課後のワンシーンが立体的になってくる。

 

そういえば、学生の時の記憶が無くなってきている気がする。無くなるというより、記憶の奥にあって取り出しにくくなっている(という願い)と思うのだが、あまり同級生にも会ってないし、メンテナンス的に、当時のバカ話をしないとエピソードも鈍っていってしまうようだ。いっそ、いつ高の卒業生だったと塗り替えて、幸せな高校生活を過ごしたと胸を張りたい。

 

 

ジム・ジャームッシュが好きだ。『ミステリー・トレイン』Tシャツをしっかり買うぐらい好きな私に大朗報が訪れた。東京のありとあらゆる映画館でジム・ジャームッシュ作品が上映されるというのだ。スケジュールを確認すると、まさしく『ミステリー・トレイン』の上映回に行けそうである。『ミステリー・トレイン』を同じ映画のTシャツで観るということも過ぎったが、そこまで暴走する必要はないと思い、シンプルな服装で家を出た。

 

自分が生まれる前の映画を、映画館で観るのは幸せなことだ。なんせ、この映画が見たくて来たという空気感が封切りすぐの映画とは全く異なる気がする。全員マスクをつけて我慢しているけど、それでもクスクス聞こえる笑い声が嬉しい。自分の名前がエンドロールに載っているようで、前列の席に座りながら勝手に作品に肩入れをしていた。

 

『ミステリー・トレイン』のTシャツには、ミツコがジュンの唇に口紅をべっとり塗る名カットがプリントされている。きっとこの映画を知らない人には、血まみれで力なく座っているように見えるだろう。その場面が近づくにつれてドキドキが始まる。そしてジュンの顔が真っ赤になる。そう、このカットをスクリーンで見たかったのだ。どこかすれ違うミツコとジュンや、ライターアクション、こちらは制服が真っ赤なホテル支配人など、部分部分で覚えているシーンが溢れ出してきてますます最高だ。最後の話で、めちゃくちゃにされるスティーブ・ブシェミの悲壮感も愛さずにはいられない。

 

このジム・ジャームッシュ特集を1作で終わらせるわけには行かない。次は、タバコを吸う女性の美しさを教えてくれた『ナイト・オン・ザ・プラネット』を見に行きたいとスケジュール帳の隙間を探している。

 

映画を見た帰りの渋谷で、すこしブラブラしていたら目の前から『ミステリー・トレイン』Tシャツ堂々と来ている人(自分の持っているのと色違いだった)がいた。きっとあの人も同じ上映会にいたのだろう。きっとあの人も家で『ミステリー・トレイン』Tシャツを着ようか着まいか迷っていたのだろう。同じ日に同じ悩みを持っているだろう人と偶然出くわしてなんだか恥ずかしかった。