砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

変態階級(『お嬢さん』観たマン)

『お嬢さん』を観た。

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年をとると、刺激を求めだす。それは、映画館で見る映画を選ぶ場合にも基準のひとつになっていて、こんなにアクションやセクシーを売りにしておいて、レートが「G」だと、私の腹で眠っているマグマがうごめき出す。一方、R指定がつくと、その分、日常生活では得られない刺激的な表現を楽しむことが出来るので、期待感が高まる。今日は、刺激を求めて『お嬢さん』。お嬢さん、この映画R18+ですって。

 

時代は、1939年の日本統治時代の朝鮮。ある豪華な屋敷に住むお嬢様のもとに、新しい召使いが来ることから物語は始まる。この召使は詐欺師一味の女で、屋敷に訪れる伯爵(=正体は、詐欺仲間)と結婚させ、財産を奪う計画のために、この屋敷に侵入したのだ。ただ、お嬢様に使えるうちに心境に変化が訪れて・・・という展開である。お嬢様、召使、伯爵の“三角関係”が織りなす極限のサイコロジーに私の心はヒリヒリし続けた。

 

心を奪われたのが、舞台設定となる屋敷だ。気持ち悪いくせに息を飲むほど美しい。畳の部屋もあれば、洋風の部屋、無限に広がる書斎に、地下室もある。光と影を網羅したこの屋敷から放たれるものは、妖気と、紛うことなき変態性である。この映画、変態だ!100%変態映画だ!!

 

物語の中で、お嬢様が行う「朗読会」というものがある。このシーンは変態の極みのひとつだ。直球の単語、言葉を頼りに妄想する変態階級の男たち。しかし、そこに汚らわしさはなく、清廉さとなぜか可笑しさがこみあげてくるのはなぜなのだろう。

 

個人的に変態性の高さ(Most Impressive Hentai)を感じたのは、音である。朗読の合間に聞こえる息づかいや、作中のひとつのキーアイテムになる鈴の音。この音が静寂な映画館の中でかすかに響く。我々は、朗読会の聴衆のように、この音をきっかけに聴覚以外の感覚を自らの脳内で作り上げる。気づけば、私も立派な変態の仲間入りをしていたようだ。ゆっくり変態を開放していくことにした。

 

 

ゴズリング in LAの別世界線 (『ナイスガイズ!』観たマン)

『ナイスガイズ!』を観た。

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『ラ・ラ・ランド』旋風が、日本にやってきているが、ライアン・ゴズリングの作品がもうひとつ、日本で公開中なのはご存知だろうか。ラッセル・クロウとのW主演作品、『ナイスガイズ!』である。奇しくも、舞台はロサンゼルス。しかもオープンカーに乗っている場面まである。2017年のオザケンに浸されまくってる私は、「並行する世界!」と叫ばずにいられなかった。

 

『ラ・ラ・ランド』は現代劇であるのに対し、この『ナイスガイズ!』は1977年という時代設定。示談屋ヒーリー(ラッセル・クロウ)と、私立探偵のマーチ(ライアン・ゴズリング)のバディ・ムービーである。ある女性の捜索というミッションが、実は重大な事件の一片であり、その事件に巻き込まれていくという展開。約2時間、テンポのいい展開と、止まらないギャグ、しっかりとした伏線の回収っぷりに、我々は休むことさえ出来ない。

 

なんてったって“剛”のヒーリーと“柔”のマーチとのバランスがちょうどいい。「恰幅」を辞書で引いたら、こんな挿絵乗ってるだろうなぐらいのラッセル・クロウが、しっかり“剛”を担当しているために、ゴズゴズのひ弱さが、面白く映る。私立探偵マーチのひとり娘も、物語を十二分に引っ掻き回して、ゴズゴズがさらに輝く。やっぱりバディ・ムービーって最高だ。

 

ただのコメディアクションではないところもいい。1977年のロサンゼルスでの社会的背景が関係している。そういう当時の文献を読みたくなる映画は素敵だ。この『ナイスガイズ!』では、ポルノ産業と自動車の排ガス規制が、事件と大きく関係している。途方もない巨大な黒い渦と、立ち向かうクセのあるヒーロー達の構図に引き込まれる。

 

そういえば、劇中で、「未来は日本製の電気自動車の時代だよ」というセリフが出てきて、ハッとした。『ラ・ラ・ランド』でミアがプリウス乗ってたじゃん。こういう小さい時代描写から、当時と現代のロサンゼルス及び米国における自動車産業の栄枯盛衰を掘ってみたくなる。一方、並行世界でもアイツは、結局オープンカー。んーゴズゴズ、今年は見逃せない。

 

takano.hateblo.jp

 

 

 

 

 

ひさびさに1巻をむさぼって

最近、心に余裕がない気がする。原因を考えてみたら、そういえば、マンガを読むことをおざなりにしていた。心地よい質の没頭感を補う必要があった。そんなわけで、ひさびさに1巻をむさぼりました。

 

コミックコーナーを見ると、マンガの細分化がとんでもないことになっていると思う。とりわけグルメ漫画なんか、「だがしかし」などを筆頭に、その食品群ごとにマンガ出来ていてもおかしくない。例えば、スーパーに置いてある食品の代わりに、それに関連するマンガを置いたらどのくらい占めることができるのだろうか。

 

読んだのは、さらにニッチな道を行く『本日のバーガー』だ。ええ、その通りです。ハンバーガーのマンガです。

本日のバーガー 1巻 (芳文社コミックス)
 

脱サラした元商社マンが主人公。ハンバーガーショップの店主となって、お客さんが抱えている人間問題をハンバーガーを使って解決するというシンプルなストーリー。美味しんぼ的展開をひたすら、ハンバーガーのみで戦うという究極のこだわりハチマキスタイル。特に1話の不振にあえぐ助っ人野球選手のくだりを読んで、美味しんぼの野球選手が登場した話を思い出したやつは挙手してほしい。ハンバーガーと同時に、ホイルにんにくが食べたくなった。

 

とはいえ、ハンバーガーの知識量がえげつないこのマンガ。日本も今やハンバーガー大国と言っても過言ではないですが、それでも氷山の一角であることに気付かされる。「所変われば品変わる」という言葉がぴったりで、その国の文化に合わせてハンバーガーが柔軟に形を変えていくのに驚嘆する。知識を満たしたら、次に満たしたくなるのは胃袋で、助っ人野球選手が食べていた“アンブルゲサ”というものがますます気になる。どこで食えるのであろうか。

 

ハンバーガーの知識がえげつない主人公なので、どこかの世界線で、山岡士郎が偶然訪れないかなあ、という妄想を膨らませている。そしてテリーマンは、街角のどこかでハンバーガーを立ち食いしている。 

 

 

 

もうひとつ、『ブラックナイトパレード』。これも『本日のバーガー』のような歴史をベースにしたマンガ。作者は『聖☆おにいさん』でおなじみの中村光

ブラックナイトパレード 1 (ヤングジャンプコミックス)
 

 

私が子供の頃に、「小学1年生」かなにかで読んだ、世界のサンタクロースをまとめた記事があって、衝撃をうけたのを覚えている。サンタクロース=めちゃくちゃ優しい赤いおじさん、と思っていた私の読むページの右下には「ドイツにいる黒いサンタ」の話。悪い子供には木の枝をプレゼントをするという説明に、なんだか怖くなり、良い子でいようと決意した瞬間であった。

 

その記憶が蘇るきっかけとなったのが、この『ブラックナイトパレード』であった。主人公は、コンビニの店員。ひょんなことから、“サンタクロース業務”を行う会社の社員になるという展開だが、赤ではなく”黒”のサンタの業務専門であるところが面白い。

 

また、労働の“ブラック”とかけているところも緻密である。手取り30万で寮付きだけども・・・という展開になんだか「うんうん」と唸ってしまう。このようなブラック企業的なギャグに笑ってしまう自分には、もう二度とサンタクロースがやってこないんだなとちょっとセンチメンタルにもなった。ある意味、子供に読ませたくないマンガだ。