砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

ただのトレインスポッティング大好きおじさん(『T2 トレインスポッティング』観たマン)

『T2 トレインスポッティング』を観た。

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高校生の時、ふとTSUTAYAのレンタルコーナーに陳列されているオレンジ色の作品を手に取った私の選択を、今の私は誇りに思っている。雷のようなイギー・ポップ「Lust for Life」のイントロ、刺激的なヘロイン中毒の描写、そして全てを洗い流すかのようなUnderworldの「Born Slippy」が流れるラスト。

 

たったの100分間で人生が“狂った”私は、見てからしばらく制服の袖をまくり、腕をバンバン叩いていた。ヘロインを打つ前に血管を浮き上がらせる動作をしては、周りに本作を見ている友達もいないのにニヤニヤしていた。

 

そのトレインスポッティングが2017年に蘇るという情報が入ったのは去年のことだった!。第1弾から20年。中年になった4人の悪ガキどもが、帰ってくる。そして、公開日と同じ時代に生きている幸せ。もうトレインスポッティング大好きボーイの私にとっては待ち焦がれていた日がやってきたのですよ!!!

 

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素敵なTシャツを手に入れてウキウキしているトレインスポッティング大好きマン #tshirt #trainspotting #ewanmcgregor #renton

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朝からテンションえれぇあがってる #t2 #trainspotting #spud #ど根性ガエル式ペアルック #movie #tshirts

 

興奮しすぎて、レントンとスパッドのプリントTシャツをBUY。悩んだ挙句に、推しメンのスパッドのTシャツを着用して、公開日に行ってまいりました。

 

20年ぶりにレントンエディンバラに降り立ったことから物語が動き出す。前作のオマージュをふんだんに散りばめた演出に、にやけが止まらない。冒頭から走る走る。(そして、脳内で流れ出すイギー・ポップ)、物語の中盤でも走る走る。むしろ中年になったほうが走ってるんじゃないかぐらいにスコットランドを走り抜ける男たち。

 

20年という月日はやっぱりとんでもない。レントンは、服のサイズに余裕を持つようになり、その顔にはシワが目立つ。サイモンやスパッドの頭皮も寂しい(だがかっこいい)。ベグビーは太ったが、その殺気はまだ鋭い。

 

前作で当たり前のように存在していたブラウン管のテレビは、いまやスパッドの家にしかなく、クラブの若者たちの踊りに一瞬たじろぐベグビーもいる。彼らが年を取って時代に取り残されたかといえば、そうではない。

 

ダイアンは前作でこういうセリフを残している。

世の中も音楽もドラッグも変化してるのにジギー・ポップに憧れて引きこもるなんて。

イギー・ポップの名前も、まだ生きていることも知らないダイアンは、「世の中が変化する」ことを、20年前から訴えている。しかし、こいつらは20年前から「変化」に対応できず、もがいていた。もとからそういう奴らなのだ。

 

自分を時代にアジャストすることが出来ない弱い4人が中年になっただけなのだ。ダイアンは続編にも、ちょこっと登場する 。この「変化」という補助線を入れるとダイアンと4人の中年の対比がはっきりとするだろう。

 

その4人の中で特に浮世離れしているのは、スパッドとベグビーだ。この2人が、20年ぶりのレントンとの再開にどういう結末をつけたのか。ということを語るだけでウルウルしてくる。ベグビーに、スパッドに泣かされるとは。20年を越えて知る人間の本質もある。

 

そして、スパッド大好きな私から伝えたい事は以下のとおりです。

 

 

朝も早くから続編に感動し、コカインを吸ってないのにアッパーの私は

 

チャンスがあれば、まだまだ劇場で見たい。私の青春。だけどこんな中年にはなりたくない!

 

 

人生は美しくて、苦しい(『ムーンライト』観たマン)

『ムーンライト』を観た。


ブラッド・ピット製作総指揮!映画『ムーンライト』予告編

 

今年度のアカデミー賞作品賞を受賞した作品。授賞式で『ラ・ラ・ランド』に“一瞬”その栄誉を奪われた、なんだか気になる映画である。黒人×LGBTQが重要なテーマである本作は、社会的背景(白人によるオスカーなど)の影響で『ラ・ラ・ランド』を負かしたとも言われている。とはいうものの、自分の目で確かめないと、俺の中の作品賞が決まらないわけで・・・というわけで観ましたよ。

 

結論からいえば、こんなことを言ってしまえば賞レースってなんだよ!ということになってしまうが、『ラ・ラ・ランド』とはベクトルが違うし、全く切り離して見るべきだ。本来この2作品は競うべきものではないんだ!ダイバーシティ!!

 

シャロンという母子家庭の環境で育つ黒人の少年の物語。少年・青年・壮年時代のシャロンを追った3部構成で成り立っている。それぞれの時代の話もシャロンの迎える現実は重い。ただ、そこまでジメッとならないのは、物語に無駄な描写がなく、本質のみを取り上げているからであろう。あっという間に時間が過ぎてしまった。

 

少年期でいえば、麻薬の商人であるフアンとの出会いが非常に大きい。麻薬商人が活躍する地域の背景が、父親のような愛情を与えるフアンと、シャロンの関係が築かれる一方で、麻薬という“つかんではいけない命のつながり”がシャロンの人生に大きく影響していく。

 

全体を通して、印象的だったのが、青い光による演出である。オカマと罵られ、安堵の場所がないシャロンを包む青い光たち。それはあくまでも一時の助けにしかなれないのだが。。。ロマンティックな映像とマイノリティなシャロンが目の当たりにする現実に我々は、息苦しさをおぼえる。

 

決して、明日から前を見て生きよう!という活力を与えてくれる映画ではないが、ただ、ヘテロ黄色人種の私であっても、どこか、シャロンと自分を投影してしまう瞬間がある。ひとりでゆっくりと冷たい美しい湖につかるような、そんな作品だ。

 

枠の外の男たちのための映画(『ハードコア』観たマン)

『ハードコア』を観た。

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ヒーローになって活躍したいという妄想は、男ならば持っている。増してや、特撮・プロレス・アクション映画・ビデオゲームという合法な麻薬たちを存分に摂取したやつらなら、その妄想は膨張の一途をたどる。

 

しかし、憧れはあるものの、ぼくらは金網の外でそれを見ているだけの人間だ。小さなころに親に連れてってもらった仮面ライダーショーでも、僕らに許される活躍は、司会のお姉さんの合図を受けてからの「がんばれ〜!!」の大声だけである。アクロバティックな殺陣に興奮する僕たちは子供の頃から善でも悪でもない存在だった。

 

しかし、大人になって、とうとうぼくらがヒーローになれるときがくるかもしれない。その感覚を与えてくれるのが、アクション映画『ハードコア』における完全な一人称目線での映像世界なのである。タイムマシンに乗っかって、あのころ、64の007でチョップ合戦していた少年たちに教えてあげたい。

 

監督はモスクワのロックバンド、Biting Elbowsのメンバーのイリヤ・ナイシュラー。ミュージックビデオで制作された映像の一人称目線が注目を浴びる。これが2011年の作品。

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もう、この3分間だけ、主観的映像のすごさが伝わってくる。屋上を、マリオのようにはね回るとき、こういう世界が広がっているのか。まるで、自分が圧倒的な殺し屋や、無敵のマーシャルアーツマスターになったような気分になる。

 

映像はさらに進化して、イリヤは今度は自分の所属していないThe Weekendというバンドの監督をすることになる。

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もはや、ミュージック聴かす気ねえだろ!と言いたくなる気持ちをグッと飲み込んで賞賛したくなるMV。『ハードコア』にもこのMVと、同様の見せ方があるので、比べてみるのも楽しいかもしれない。イリヤの主観的映像のエッセンスが詰まった傑作である。

 

数秒間でYouTube視聴者に関心を持ってもらう設定、思わず拡散したくなるアイデアが重要となり、ネットの世界で独自の進化を遂げたMVが、映画の世界に流入した特筆すべき例であるといえる。確実にMVと映画のの境目はなくなりつつあるんだろうな。(そういえば、MVみたいな映画もあるし。。。)

 

とはいえ、MVを2時間弱に間延びしてるだけでなく、しっかり映画として成立している。観客に与えられる情報は、主人公目線だけだ。まるでゲームが進行するかのように、ステージ展開、敵のレベルアップ、味方に隠された事実などが、テンポよく明らかになっている。

 

個人的には、主人公のヘンリーをサポートするジミーの設定に興奮する。アクションだらけの映画で、一種の緩和パートを担当する役だが、ある事実が明らかになり、これだよこれ!こいつが味方なのかとニヤニヤしてしまった。『ハードコア』は、ヒーローになりたい枠の外の男たちの夢を叶えるとてつもない作品なのである。

 

興奮冷めやらぬ私は、帰り道に、ガードレールを飛び越えようとしたが、足がすくみ、おじいちゃんみたいによぼよぼまたぐ格好になってしまった。むむむ、基礎が足りない。まずは柔軟体操からはじめよう。 

 

ハードコア (字幕/吹替)

ハードコア (字幕/吹替)

  • イリヤ・ナイシュラー
  • SF/ファンタジー
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