『ノープ』を見た。
映像の歴史は偉大である。これは本当の話か知らないけど、映画の生みの親であるリュミエール兄弟が、駅に到着する列車のフィルムを会場で流したところ、観客が本当に列車が突っ込んでくると勘違いして、逃げ惑ったという話がある。それだけ革命的なことが起きてもはや100年以上、今や誰もが映像を撮り、共有できる時代になった。ちなみに、YouTubeで一番最初にアップされた動画に映っているのは象と人間のツーショット。今日はこの雑学だけでも覚えて帰ってください。
『ゲット・アウト』や『アス』などでもおなじみジョーダン・ピール監督の最新作。過去2作を見ていると、今回もアメリカの暗部を照らし出すような批判的なメッセージが込められている作品かと思って、予告編を見たけども、「今回はSFなの?」と頭の中でクエスチョンマークと高揚感とが渦を巻く。
あまり展開を言ってしまうと驚きが減りそう(予告編を見たのは結果的にマイナスだったかも)なので、なるべく最小限の情報であらすじを言うと、主人公は黒人のOJ。代々、ハリウッド映画で使う馬の牧場を経営している一家のOJは、あるとき、謎の飛行物落下事故で父親を亡くしてしまう。事故の瞬間に現場にいたOJは、そのときに空を飛んでいた未確認飛行物体のようなものが気になっていた。そんな中、OJの周りに怪現象が次々に起こるという話である。
冒頭のとあるシーンからトラウマ級に衝撃的で、何が起きているかわからないままで、OJたちが怪現象に翻弄される瞬間を目の当たりにする。SFであり、ホラーであり、社会批判的要素もあるけども、心がグッと熱くなるような人間的ドラマも描かれている。名作のオマージュもいくつか散りばめられていて、(特に「ズサーッ」となるアレは最高だった)ジョーダン・ピールの映画愛を感じる部分はありながらも、それまでの2作と違うエンタメ的要素も強い。
作中では19世紀終盤に撮影された、とある連続写真の話が出てくる。後に映写機を発明したエジソンにも影響を与えたとされる連続写真の撮影家はエドワード・マイブリッジという男。その"The horse in motion"という連続写真には黒人騎手が馬にまたがって走っている姿が撮影されている。しかし、その黒人騎手の名前は記録されていなかった。これが黒人が当時重要視されていなかったエピソードとして紹介されていて『ノープ』の重要なシーンと関係してくる。
獰猛な動物や、過酷な天候が襲う環境の中で人間はどうやって生き続け、発展を遂げてきたか。それは記録である。絵にしたり、文字にしたり、写真を発明して、暮らしの失敗と成功を記録し続けた。
そしてとうとう映像というテクノロジーで、後世に伝承することまでできてしまった。映画のオマージュだってそうだ。記憶に残るようなショットが、記録として現代の僕らに遍く届いているから作り手と受けては幸せな関係を構築できる。有名無名に限らず、先人の功績があるからこそ、こうやってふかふかの椅子に座って大スクリーンで見たり、小さい画面でこっそり見たりすることができる。過去の上に立った上で最高のエンターテインメントを楽しむことができるのだということだけでも覚えて帰ってください。