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育つな、卵【ハッチング -孵化-】

『ハッチング -孵化-』を観た。


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どうしても不満な感情を溜めてしまう癖がある。不満なことがあれば、しっかりとその場で解消すればいいのに、やり過ごしてしまう。その溜まった感情がMAXに達したときに、強く人に当たってしまったこともあった。ガス抜きの上手な人に憧れる。心の健康を手に入れるには正々堂々と戦うことが必要だ。

 

『ハッチング』に登場する12歳の少女ティンヤもどちらかというと、溜め込んでしまうタイプの性格だ。新体操を学んでいる4人家族の長女だけども、この両親がどうも気になる。Vlogで"家族の幸せな時間"を配信している母から新体操で結果を残すよう異常なプレッシャーをかけられるし、どこかティンヤのことを所有物として扱っている。さらには木こりのようなマッチョと不倫している。一方、父親はそんな状況に気づきながらも、反対することもなく、事なかれ主義のような立ち位置。

 

そんな家庭の中で育つティンヤだが、ある事件をきっかけにひとつの卵を手に入れる。自分の部屋に持ち帰ったティンヤは、その卵をベッドに隠す。不思議なことに、ティンヤが不安や抑圧を受けることに、その卵がどんどんと育っていく。最初は鶏卵ぐらいの大きさだったのに…

 

タイトル通り、このティンヤの卵が”孵化”するのだけども、孵化するまで、そして孵化した後を通じて不気味なトーンで展開されていく。ホラー系の映画なので心拍数が上がるような場面が多いのだが、一見、完璧な家族に属しているティンヤの不安定さ、不自由さに、どこか共感してしまうのだ。思春期とは、とにかく脆い。

 

その内面の不安定さと裏腹に、新体操をやっており、ビジュアルも強めなティンヤなのだから、我々はこの少女が迎える結末を知らずにはいられない。ホラーではあるが、これはティンヤという少女の成長物語であり、この『ハッチング』が迎えた結末にカタルシスを感じてしまった。同じ北欧で生まれた『ミッドサマー』のように、人によってはハッピーエンドとして捉える映画なのではないか。

 

もしかしたら自分もティンヤのように卵を拾ったら、その卵を孵化させてしまうのかもしれない。一方で、誰かの卵を孵化させる真っ黒い栄養素を与えているのかもしれない。せめて自分と、その周りの人々には、そうなってほしくない。ストレス軽減に効果がある卵料理を食べながらそう誓った。