砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

M-1グランプリ2021の感想を書かせてください

夏から1段ずつ積み上がっていったピラミッドは1年に1度のお祭りとともに過ぎ去ってしまった。今年は残念ながら準決勝のライブビューイングが開催されなくて、あのお笑い好きだけがパンパンに詰まった映画館を体験できなかったことは残念だけど、今年のM-1グランプリも素晴らしい大会だった。例年のようにうだうだ感想を書かせてください。

 

今大会は、M-1に対する価値観の多様化を感じた大会であった。決勝出場者でいえば、この3つの野望に分けられる気がする。

①:M-1の決勝で勝ちたい

②:M-1の決勝で爪痕を残したい

③:M-1の決勝でやりたい漫才をやりたい

 

①は本来の目的である。漫才日本一という最強の称号を手に入れるためにしのぎを削る。4分の制限時間で繰り広げられる漫才は、競技用漫才と言われたりするけど、それでも出場した10組の中には、研ぎ澄まされた漫才が何組か存在した。特にオズワルドの1本目は素晴らしかった。ヤバい倫理観を持つ相方かと思ったらまさかのハッピーエンド。サンパチマイクを挟んで立ち上るビッグピース。トレンドの優しい笑いも包含した締め方も美しい。

 

②はオバケ番組となったM-1決勝で優勝はできなくても勝者になれる方法だ。今年で言えばランジャタイ、真空ジェシカあたりか。人生が変わるかもしれない大会で、漫才以外の部分(笑神籤、審査を受けてのコメント、敗退コメント)にボケしろを見つけて、点数以外の強烈な記憶を植え付ける。フォーマットを崩すのが芸人であれば、それはとても当たり前な態度である。ランジャタイもういっちょを見ていた私は、「練習通り!」と思わず歓喜した。真空ジェシカキングオブコント2本目待機のくだりをやってくれて嬉しかった。(かすかに逆ニッチェを期待していたけど…)

 


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もしも10分のM-1があったらランジャタイは700点を叩き出すのではないか。

 

②について決勝以外に目をやれば、ラパルフェの爪痕の残し方は今年のM-1のひとつのハイライトではないか。巨大イベントの真実を暴く桜木建二の姿は確実に我々の記憶に残り続ける。


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③は今年がラストイヤーだったハライチの戦い方だ。敗者復活できっちり勝ちきり、決勝でタイムオーバーしてまでも、やりたい漫才をやって帰る。それができる事自体に「M-1<ハライチ」のようなパワーバランスが透けて見える。M-1と戦っているというより、過去に自分たちが生み出した「ノリボケ漫才」の15年の中で5回も決勝進出したハライチしかできない自我の通し方だと思う。最後の岩井さんの敗者コメントもすがすがしかった。

 

優勝した錦鯉は、何も考えなくて笑える強い漫才だった。今年も大変な1年だったから考えずに笑えるやつが強かったのかな。叩くツッコミに嫌悪感を感じる時代なのに、あれだけバシバシ頭を叩いていても不快感が無いのは、真似できなさそうだからなのかもしれない。あんな陽気でおバカなつるっぱげの50歳なんて日本中を探してもそうそう見つからない。そもそも年を取れば取るほど頭を叩かれる可能性なんて減っていくし、雅紀さんが50年の人生をかけて作り上げたギャグ漫画的2.5次元漫才というか、そんな言葉が浮かんだ。

 

個人的に好きだったのは真空ジェシカだったんだけど、審査員の反応を見ると、見る側のお笑い反射神経が求められる漫才なのかなあと感じた。微妙に世間平均が持つ間と、真空ジェシカの間がズレてるというか、それがそこまで得点が伸びてなかったのかなあと感じたし、30代以下の審査員がいたら真空ジェシカが一番だったんじゃないかなとも思った。

 

こうやって、M-1に対する価値観が色々あるから、見る側もいろいろなポイントから語るのが正しいM-1の楽しみ方だと思うのですよ。また来年の夏にピラミッドの建設が始まることを楽しみにしている。