砂ビルジャックレコード

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キングオブコント2021について書かせてください

キングオブコント2021が終了した。「おいでやすこがショック」に伴うユニット参加解禁、さらに、審査員4人交代という新時代到来を感じさせる変更点があったが、結果として、ほんとうにKOCに新時代が来たのだと感じさせる伝説的な大会だったと思う。ということで、もろもろ書かせてください。

 

 

 

 

新しい審査員について

Twitterでも多くの予想が流れていたが、大方、予想通りの人選で納得した方が多いのではないかと思う。キング経験者で固め、東西のバランスも良い。小峠さんが階段を降りるときの紹介Vが「パナマどこよ」なのに笑ってしまった。TBSは「パナマどこよ」が好き。東京03の飯塚さんが新審査員のラストピースとして、ギリギリまで発表されないというのが最高だし、松ちゃんの隣にいるというのも心にくるものがある。

 

拍手笑いについて

今回の大会は、賞レースのひとつの客観的基準となる「拍手笑い」が起きるハードルが低かったように感じた。トップの蛙亭のネタが、ぶっとんでて面白かったというのもあるけど、コロナ禍による影響があるという説をあげてみたい。

ライブで観客は声を出せないので、その分、拍手をして、演者とコミュニケーションを取ろうとする。(とくに音楽ライブはそういう方式になっている)お笑いライブは、もちろん笑っていいんだけど、笑い声が遠慮がちな部分だったり、マスクで完全に見せることができない笑顔のかわりに、拍手によって、「面白い!」ということを伝えているのではないか。

 

コント性について

M-1とのWファイナリストであるマヂラブとニューヨークが低調だったことは、今大会の衝撃的なトピックのひとつだ。低調の理由は、ニューヨークのネタ後の松本さんの「概ね、漫才でも(このコントが)できたのではないか」という言葉に集約されているのだと思う。これはいい意味で、漫才とコントは別々のものと再定義する重い言葉だ。舞台上のコントでしか表現できないネタというのが前提として求められている。今大会の注目として野田クリスタルさんの”3冠制覇”がかかっていたけども、コント性の重要度が増すことで、漫才・コントをWで制することの難易度がさらに上がってしまったように思える。

そもそもWファイナリスト自体がとてつもない快挙だし、2021年で売れっ子の2組がまだまだ勝ちに行こうとする姿勢は尊敬するべきだ。野田さんのコックリさんに取り憑かれているときのマイムは、単純に引き込まれてしまった。ニューヨークはM-1・KOC、ともに決勝で最下位を経験するという唯一無二の記録を打ち立てたのも愛おしい。審査後に松本さんに噛み付く屋敷さんを見て、敗退時の立ち振舞いの器用さに感動していた。

 

「転」について

持ち時間5分の大会なので、起承転結の「転」の巧みさが求められる。うるとらブギーズの迷子のコントでの興奮と冷静の切り替えは、予想外で、「絶対に笑ってはいけない場面」を作り出していた。館内放送で声を震わせながら「ていびし」とアナウンスするときの、少し声が裏返る感じとか最高である。「だいこんおろし」の彼女募集記念レースを思い出した。

男性ブランコは2本とも「転」がバシッと効いていて気持ちがいい。1本目のボトルメールのネタでは、初めて直接会う男女の描写を、男性視点の妄想だったという映画的転調で、それまでの展開をフリとして内包することに成功している。そして結末が想像通りだったというハッピーエンド。同じことをやっているだけなのに、こうも見方が違うのか。

 

空気階段について

蛙亭ジェラードンがあげたハードル、直前のザ・マミィの爆発があったのにもかかわらず、それらを押しのけて10点近くの差をつけたトップ空気階段横綱相撲を見せつけた大会だった。ザ・マミィが、いわば空気階段のような、社会のはみ出し者の人間的魅力を描いた作品だったので、似たようなネタが続くのかと思いきや、1本目の「火事」での登場人物は非番の公務員だった。つまり、社会の内側の人間の物語であったのは正直、以外だった。

 

休日にSM風俗に行った消防士と警察官が、一人たりとも火事による犠牲者を出すまいと、それぞれの職業としての勤めとして、使命感を果たしているだけなのに、パンツ一丁で手錠をされているから面白い。警察官であるオカモトの実直な性格もセリフから伝わってくる。本名でSMを予約するし、消防士のサキヤマのことを、風俗で予約するときの「ヤマザキさん」と呼んでいるのも紳士的だ。

 

そんなただのMの一般人状態であったオカモトとヤマザキが、危機的状況に陥って、ヒーローであることを明かさなければならないというのもヒーローとしての物語としてよくできている。自分であることを明かすと普段の社会的信用を失ってしまうかもしれない。そのままお客さんとして避難すれば、今までと変わらず警察官や消防士という街のヒーローとしての暮らしが続くというのに、それでも社会のため、人命のため、自分を犠牲にしている。これは、ヒーローとしての逃げられない宿命だったのだ。その宿命が輝く瞬間をコントして昇華させたのは恐ろしくもある。他のファイナリストと格が違った感さえある。

 

2本目のメガトンパンチマンもヒーローという言葉でくくれるのは偶然だろう。自分は「anna」を見ていたので、メガトンパンチマンのネタだとわかったときに勝ちを確信した。金髪の男性がデビルキック伯爵だということを知っていたから、Twitterの「あれがメガトンパンチマンじゃないのかよ!」というツッコミを見て、新鮮さを取り戻す。このネタ単体だけでも最高だし、「anna」全体の中の1本としても最高なので、あの金髪の男性がデビルキック伯爵だと学んだ方には、ぜひとも「anna」を見てほしいなあと願う次第だ。

 

 

 

これで空気階段は賞レースを卒業だと思うから、かたまりさんのお笑い愛にあふれるコメントが聞けなくなるのは残念だけど、あなたが生きている意味はあるし、空気階段と同じ時代に生きているということで、僕たちも生きる意味があるってもんだ。サイコゥ!サイコゥ!サイコゥ!

 

takano.hateblo.jp