砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

冷めない熱はテープの中に(『mid90s』観たマン)

『mid90s』を観た。

 

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思えば遠くへ来たもんだ。時代はあっという間に2020年。90年代生まれの私は世紀を越え、年号を越えてしまった。ノストラダムスガラケーもVHSもガングロギャルも過去には通り過ぎていって、人々はコロナにてんてこまいしている。そんな2020年に、とうとう自分の生きていた(ほとんど記憶ないけど)時代を懐かしがる映画が出てきた。タイトルは『mid90s』。名前の通り90年代なかばのロサンゼルスでの物語だ。

 

主人公は13歳のスティービー。母と兄の3人ぐらしの彼は、あるときスケートボードショップを見つける。ショップで屯するレイやファックシットという青年たちが作り上げるそのコミュニティのかっこよさに魅了され、スティービーは徐々に入り浸り始める。そのコミュニティを通じてスティービーが青年としての色々な経験を積む甘酸っぱい話だ。 

 

主役となるスティービーやレイ、ファックシットといったコミュニティの面々は実際のボーダーということもあって、その姿がめちゃくちゃかっこいい。上手いから下手なこともできるんだよな。ちゃんとスケートボードのシーンが決まっているからこそ、対比としてそれぞれの人間関係に苦悩している彼らの横顔が愛おしくなる。大人たちが作り上げる社会を忘れてスケートボードを通じて、ひたすらに人生に没頭する少年たちは美しい。

 

とくにスティービーのボードをリーダー格のレイが仕立てるシーンがあるのだけど、この映画で最も息を呑む場面だ。道具を扱う職人的な目線もグッと来るし、先代の勇者から伝説の剣を託されるような瞬間でもあり、声にならないように「うおおおおっ」と叫びたくなる。兄弟ぐらいの年の差で、何かが継承されていく素晴らしさ。青春。青春してるねスティービー。

 

90年代はハンディカムが普及して「記録」の時代となった。物語でもコミュニティのフォースグレードがカメラマンとして、彼らのパフォーマンスを撮影している。この記録の映像が、劇中のクライマックスで流れるのだけど、これがまた、揺さぶってくる。きっと、当時の出来たての映像作品としての感動とは違う、2020年から見た90年代の質感に感動してしまう。記録技術含め、現代のテクノロジーや流行に適応した自分に半分と、過去から帰ることのできない自分の半分とが不思議と混ざり合っていく。スティービーをはじめ90年代を一所懸命に滑走していった少年たちの熱にいつまでも触れていたくなる。