『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を観た。
幸福なことに教育を受けられた私達は、人生の初期において卒業式というイベントを経験する。たいていの人であれば3〜4回主役として出席する卒業式だが、言い方を変えてみれば、ネガティブな言い方をしてみれば青春の死亡宣告をされている華やかな会となる。通過儀礼として割り切れば、それまでだけど、当の本人は知る由もない。そして通過してから気づくのだ。もっと楽しんでおけばよかったと。
『ブックスマート』は、私が言うならば青春死亡前夜の物語である。主人公であるエイミーとモリーは親友で、2人ともガリ勉タイプ。他のクラスメイトのように遊び呆けることなく勉学に勤しんだ結果、高校卒業後のビジョンも明確だ。そんな中、モリーはある衝撃の事実を知ってしまう。遊んでるだけだと思っていた、やや下に見ていたクラスメイトの進路が自分と同じ名門大学や偏差値の高い大学であったのだ。モリーはエイミーを強引に引き連れ、残りの学生生活を謳歌しようとロサンゼルス中の卒業パーティーを駆け抜ける。
まず、舞台となった高校がキラキラしているのがもう羨ましい。楽しいことをしていないエイミーとモリーだが、そもそもエリート。もちろん悩みはいっぱいあるけれど、悲観的な生い立ちもないし、コメディとして不執拗なジメジメ感も全く無い。ステレオタイプのアメリカの高校的なスクールカースト描写がほとんど観られないのも、変な息苦しさを感じなくて良い。フィクションの中ぐらい理想的な高校があっていいじゃないの。
こんなカラッとした作中の空気感に強烈に個性を放つのが、キャラクターたちだ。エイミーとモリーの、なんか知らんけどクラスにいるめっちゃ仲良しな2人(これはアメリカにもいるのね)をはじめ、船上パーティーを主催するジャレッド、神出鬼没のジジ、演劇風パーティーを行うジョージとアラン、学級副委員長のニックと、他にもいっぱいいて、2時間なのに端役まで濃くて彼らのことも好きになってしまう。
エイミーとモリーは、一夜の中で様々な卒業パーティーを巡る青春ロードムービー的要素もある。そもそもパーティーの場所さえも知らされてなかった彼女たちが、どうやってたどり着くかも面白い。しかも、無謀に夜の街へ冒険するだけでなく、人の心への冒険もある。今までクラスメイトという弱い共通点でしか括っていなかった人間が、こんなやつだったなんて、こんな考えだったなんて。彼女たちは、一歩踏み出すことで新たな世界を知る。こんなん一夜で経験できるの?ぐらいに。
高校生終了という死に向かって突き進むエイミーとモリーは、無事に遊び尽くすことが出来たのか。最後の夜も太陽が昇ればタイムリミット。その卒業式も描かれていて、思わず胸が熱くなった。泣き笑いするにはもってこいの作品だと思う。
ふと、自分の卒業式前夜と『ブックスマート』を照らし合わせてみたけど、ほとんど覚えていないことに気づいた。素朴に死を受け入れていた自分は青春の亡霊となっているようだ。青春を生きているうちは、はちゃめちゃやったほうがよかったなあと、スクリーンの彼女たちを観ながらふわふわと浮いていた。