『アラジン』を観た。
女友達あるあるをひとつ。「女友達にひとりはカラオケでホール・ニュー・ワールド歌うやつがいる」これ、実際の学生時代の女友達もそうだったし、カラオケで悪趣味ながら他人の履歴を遡ると、絶対ホール・ニュー・ワールドが残っている。調べてみたらカラオケの洋楽ランキング1位だった。ちゃんと歌えたらかっこいいもんな。もはや現在のデュエット曲の定番は、ロンリー・チャップリンでもWon't be longでもなく、ホール・ニュー・ワールドなのだ。
私はたまにひとりでカラオケに行くと、その履歴からこの曲を送信してしまう。裏声と地声を使い分け、アラジンとジャスミンになろうとする。途中で掛け合いがあるから歌えなくなるんだけど構わない。一回目のサビでだいぶ満たされる。ひとりきりのカラオケボックスこそ私だけのホール・ニュー・ワールド。
この主題歌の印象が強いアラジンが実写化される情報が流れてきた。魔法のランプの青い魔人・ジーニーをウィル・スミスが演じるという超キャスティングにも驚いたが、一番の衝撃は、あの大好きなガイ・リッチーが監督を行うということだった。え、あの『スナッチ』とか『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』みたいなギャングとか闇ボクシングとか、そういうファンタジーとは真反対の世界観の映画を撮ってきた人だよ?それでもってディズニーだよ?もしかしてディズニーに騙されているのか、それともディズニーが騙されているのか、いてもたってもいられなくなって、『アラジン』を観た。
間違いなく、間違いなく、ディズニーの世界観にガイ・リッチーがプンプンに漂う映画体験だった。なるほど、ガイ・リッチーが監督に抜擢されたのはそういうことだったのか。主人公であるアラジンの心の清らかなコソ泥であるというキャラクター性が、彼が今まで作り上げた映画の世界観とマッチするのだ。
冒頭のガヤガヤとした市中でアラジンが追っ手から逃げるシーンは、まさにガイ・リッチー。ごちゃごちゃした路地を主人公に逃げさせたら一級品よ。ダイヤの原石の成り上がりストーリーは『キング・アーサー』でも経験済み。そこに、ディズニーの清らかさ、お行儀の良さが加わるものがからアラジンというキャラクターの魅力がグンと増す。
そんな一方で、『スナッチ』のようなバイオレンスな描写を加えた展開が二転三転するアラジンも見てみたかったなあと個人的な妄想。ジャファー以外にも魔法のランプを狙う勢力が出てきてさ、多少の血しぶきも出てさ、アラジンも多少の拷問を受けてさ、魔法のランプがコロコロ転がって意外なやつがこすったりしてさ...Rated Aladdinご一考ください。
ガイ・リッチー映画って「裏路地の男の世界!」みたいなイメージだけど、今回はその固定概念さえもふっ飛ばしてしまった。ヒロインのジャスミンがかっこいい!全体的に今回の『アラジン』に登場する女性キャラクターから強さを感じる。この描写はガイ・リッチー版アラジンの一番の特徴だろう。『コードネームU.N.C.L.E』での強い女性像を描写した過去がここでもバチッとハマったのではないかと、勝手に紐づける。過去の映画でのポイントポイントが絡まって、この2019年版の『アラジン』を作り上げたのです。ガイ・リッチーの総決算でしょう。
旧来のマッチョイズムなプリンスでないアラジンと、行動的なプリンセスのジャスミンのバランスもちょうどいい。失意の中で「Speechless」を歌うジャスミンには心が震えた。このやるせない感情描写に出会っただけでも映画館で見た価値があったなあと。ああ「Speechless」も、ひとりホール・ニュー・ワールドで歌ってみたい。