砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

白と黒(『グリーン・ブック』観たマン)

『グリーン・ブック』を観た。


【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告

 

最近、実話をベースにした映画が増えているような気がする。リュミエール兄弟が映画を発明してから120年。「この人の生涯、映画にしたら面白いんじゃないかなあ?」みたいな考えを持つ人が増えてきたんだと思う。当時にそう思っていたことが、時を経て、本当に映画になったなら、なんて素敵なタイムカプセルだろう。

 

この『グリーン・ブック』の脚本を書いたのは、ニック・バレロンガという男。この映画を観た方ならピンとくる名前かもしれないが、主人公のうちのひとり、トニー・リップの実の息子である。息子が紡ぐ、父親とその親友の冒険談という背景のエピソードを知るだけでもワクワクが止まらない。

 

黒人差別が激しかった1960年代、ジャマイカアメリカ人ピアニスト、ドクター・シャーリーは運転手兼ボディガードとしてイタリア系アメリカ人のトニー・リップを雇いアメリカ南部をめぐるツアーを行う。最初は波長が合わない二人だったが、旅を続けるうちに友情が芽生えてくる。車中の二人の見解の相違はなぜか微笑ましい。ただ、悲しいことに彼らの友情が強くなるトリガーのひとつとなるのが、蔓延っていた黒人差別である。

 

作中では、ぼくたちが歴史の教科書で学んだ、トイレやレストラン、宿泊所における隔離も当たり前のように描写されている。こうやって一日の流れの中で映像化すると、身近なところで何度も食らう差別へのいらいらがすさまじい。食欲も排泄欲もノーストレスで満たすことができない現状が淡々とシャーリーたちに降りかかる。

 

一方、舞台上のシャーリーの見事なパフォーマンスに拍手を送るのが白人たちというのが皮肉だ。あくまでも彼らにとっては、シャーリーのコンサートは自らのステータスをあげるのに都合の良い消費財でしかない。この時代にSNSがあったら、バンバンこの模様をアップしているんだろうな。トロフィーを掲げることしかできない人はいつの時代も一定数いるのだ。なんなんだろうね、この行動、あの数十秒を見させられる我々の正しいリアクションがわからないよ。

 

しかし、そんな現状でも自分の信念を貫いてツアーを続けるドクター・シャーリーの気高さと、相棒トニー・リップの明るい性格と人情にホロっとくる。特にシャーリーの「品位を保つことが勝利をもたらす」というセリフに、彼の志がギュッと詰まっているように思う。 ピンとした姿勢で演奏するスタインウェイには白と黒の鍵盤が美しく並んでいることをシャーリーは誰よりも知っているのだ。この信念が50年の時を経て、僕たちに届けられたことを感謝したい。