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映画館は月の上に(『ファースト・マン』観たマン)

ファースト・マン』を観た。

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ファースト・マン』の作中に出てくる当時の日付に驚いてしまった。1969年7月16日、アポロ11号の打ち上げ日が50年前という事実に。ポルノグラフィティが「僕らの生まれてくるずっとずっと前にはもう」と言っていたけど、ほんとうにずっとずっと前だったのか。あれから50年経って地球と宇宙の心理的距離は近づいたと思うけど、地球と月の距離はあれから変わっただろうか?1000年も前に藤原道長が「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」と詠んだときから、ずっと月は遠い月のまま。

 

だけど50年前、確実に地球と月はつながった。その架け橋となったファースト・マンがご存知アームストロング船長だ。宇宙飛行士となったニール・アームストロングの月面着陸成功までの数年間を描いた伝記的作品だ。監督はデミアン・チャゼルで主演はライアン・ゴズリング。そう『ラ・ラ・ランド』のコンビである。L.A to the moon. あの高速道路はフロリダ経由で宇宙に続いていたんだ。

  

知識も判断力も体力も全て兼ね備えなければならない宇宙飛行士という選ばれし職業はまるで人類の生み出した傑作の人間ともいえよう。しかし、せっかく完成した宇宙飛行士はとても脆い。脆いというか、大気圏の外側が強すぎるのだ。未知なる宇宙への冒険の失敗は、指から血が出る、財布を落とすほどのダメージではない。自分の命や、はたまた国家としてのプライドまでも失くなってしまうレベルのものである。

 

「死」の描写も少なくない。昨日まで夢を語り合った宇宙飛行士の仲間が明日にはいない可能性だってある。ロマンを求める引き換えに目の当たりにする現実。文字通り前人未到のことだから我々がやっていることは、死に急ぐことなのかもしれない。愛する奥さんは子供と囲むテーブルで、そんなことを考えた宇宙飛行士もいるかもしれない。もちろん、ニールの歩んできた道も大成功ばかりではない。幾多のトラブルを対処しながら、宇宙でのミッションをこなしていく職人的な仕事っぷりと冷静さがなんだか頼もしい。

 

そして、アポロ11号の船長となったニールは「ファースト・マン」となる。ニールの苦難の道を知っているからこそ、月面への着陸、そして静かの海に、その偉大な一歩をゆっくりと踏みしめる瞬間に心が熱くなる。

 

観た回は、お年寄りのお客さんが多い印象だった。50年前のことだからリアルタイムで観た方も多かったんだろう。エンドロールの途中でおじいちゃんが何人も暗がりの中をそろーりそろりと足元を確かめながら階段を降りていた。まるで、ニールがアポロ11号から降りるように。こんなところに月面があったのか。