『寝ても覚めても』を観た。
一度だけ、もう二度と会うことはないだろうと思った昔の恋人を偶然街で見かけたことがある。人通りの多い中、その元恋人は友達とガールズトークのようなことをしていた。きっとむこうは気づいていないだろう。もう願望に近い。当時はその街から出るまで逃亡者のように心臓がバクバクだったことを思い出す。
『寝ても覚めても』は主人公、朝子の偶然で残酷なラブストーリーだ。大阪に暮らしていた朝子は麦(ばく)という男と一瞬で恋に落ちる。もうそれはそれは盲目な恋愛は麦の失踪により突然終わりを告げる。2年後、朝子は東京でカフェ店員をしていた。その彼女のもとに麦と瓜二つの男、亮平が現れる。好きだった男(ではないのだが)が違う形で現れたときの朝子の揺れ動く感情が面白い。おじさんの俺だってそうなるわ。
この映画を見たあと、ぱっと思いついたのが『勝手にふるえてろ』だ。(朝子の友人役に渡辺大知が出てたというのもあると思うが)理想(いなくなってしまったひと)と現実(今ここにあるひと)の狭間で悩む女性はパワフルだ。これは現実でもそうなのだろうか?(そのへん教えてください)ただ、自分の感情に正直になるもならないも恋愛している時点でそれは正しいと思う。
この恋愛の問題に悩み満ちる朝子を演じるのが唐田えりかのような素朴顔の女優であることが素晴らしい。どこにでも居そうな人にだって、壮絶な恋愛を抱えているんだという気づきを与えてくれる。カフェの店員さんだって、疲れた顔のサラリーマンだって、もしかしたらあなたの母親にだって、忘れられない恋をしてきたから今があるのかもしれない。その日常では誰も見向きもしない立体感が恐ろしかったりする。
そして、麦と亮平の一人二役を演じているのが、みんなの東出昌大である。この東出兄さんの二人の演じ分けにニヤニヤしてしまった。麦は自由奔放で、誰かに養われないと死んでしまうんじゃないか?でもなんだか惹きつけられてしまう。動物で言うなら猫だ。一方、亮平は大手酒造メーカーに勤めるサラリーマン。着実に社会に貢献しているし、麦と比べれば犬的な人間である。この対比も朝子を悩ますポイントになるのだが、それはそうと表も裏も楽しめる軽い東出まつりになっている。犬っぽい東出猫っぽい東出をお得に堪能できちゃう。
展開が衝撃だったので、これはいたる所のあなたに見てほしいのだがこれを最後の切り札として紹介する。これは猫映画だ。猫東出も登場するがきちっとした猫も出てくるし、非常に良い役割を果たすのだ。毎年必ず出てくる素晴らしい猫映画。今年は『寝ても覚めても』が最有力候補だとおもいます。
【メモ:過去の年間最高猫映画】
2016:FAKE
2017:ギフテッド