砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

いつだって朝日は広告看板を照らす(『スリー・ビルボード』観たマン)

スリー・ビルボード』を観た。


『スリー・ビルボード』予告編 | Three Billboards Outside Ebbing, Missouri Trailer

 

スタン・ハンセンの入場曲「サンライズ」を初めから聞いたことはあるか?往年の乱闘シーン用BGMとなっているこの曲だが、実は曲の冒頭はとても牧歌的なメロディーが流れる。バンジョーがのどかにメロディを紡ぎ、馬が嘶く。広大な牧場の朝のような風景を想起させたあと、突然ワープしたかのように暴力的なアレが流れる。『スリー・ビルボード』を観ながら、頭のなかに思い浮かんだのはこの「サンライズ」だった。Youth!

 


スタン・ハンセン テーマ曲 / サンライズ SUNRISE / スペクトラム SPECTRUM

 

残念ながらテキサスではなく、ミズーリのエビングという架空の町が物語の舞台だ。エビングに住むミルドレッドは娘を殺された女性だ。もう老婆と呼んでも過言ではない。娘を殺した犯人が捕まっていないことに業を煮やしたミルドレッドは、町にある3枚の巨大な広告看板を使って、警察に対する怒りを表現する。その広告看板がきっかけで物語が大きく動き出す。閉鎖的な田舎町が舞台の人間ドラマだ。

 

警察を批判する看板(しかも署長は名指し!)を出されたら、メンツ丸つぶれのポリスメンたちはミルドレッドに怒るに決まっているし、その周辺も騒がしくなる。メディアだって取り上げたくなる。ひとりの女性の怒りのエネルギーが摩擦なく、関連する人々の怒りのエネルギーに連なっていく。暴力であったり、暴言であったり、それぞれが怒りを表現するのだが、その表現が次の展開を生み出し、物語が重厚になっていく。怒りが目まぐるしく別のエネルギーになる瞬間にハッとする。とっても人間くさくて目が離せない。

 

映画全体が醸し出す雰囲気がなんとなく『ツイン・ピークス』とか『ファーゴ』っぽいなあと思っていたら、ミルドレッドを演じていた方が『ファーゴ』の女性警官をやっていたフランシス・マクドーマンドさんでした。気付かずに申し訳ありません。さらに調べたら、音楽を担当された方も同じということでした。重ねてお詫び申し上げます。

 

そのカーター・バーウェルが担当した音楽が観ている心をざわつかせる。「サンライズ」の冒頭のようなカントリー・ミュージックが本作を支配しているのだが、のどかな楽曲と作中人物が織りなす怒りの感情や事件とのギャップがすごい。いや、そこでカントリー?はやくブルロープ振り回したくなる音楽かけろよ!と最初は思いたくなるがどっこい、このカントリーが不思議と物語にマッチするのだ。シリアスな物語でのカントリーは、エビングが広大なアメリカのちっぽけな町であることを際立たせる。

 

毎日、太陽は昇って、道に聳える大きな広告看板を照らす。しかも、太陽はその広告看板の近くに影を作る。だけども、僕たちはその看板に描かれている内容を受け止めてリアクションするだけで影の存在に気づいていない。これは、その広告看板の影にフォーカスを当てた作品だ。