砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

M-1グランプリ2017の感想を書かせてください

今年もあっという間にM-1グランプリが過ぎ去ってしまいました。もうこの日に向けて我々観る側も仕上げてきているような気がする。私も予定を全く入れずに、外出も午前中だけで済ませてこの一大イベントを迎えたのです。

 

去年との最大の変更は、順番がその場で決まるということ。これは、“仕上げる”派のファンにとっては楽しみをひとつ奪われた結果となった。ネタ順を見ながらあーでもないこーでもないと現場の空気を予想しながら優勝予想するのが楽しみだったのに。敗者復活枠の順番も抽選であらかじめ決めておけばよかったのに。とグチグチ言っておりましたが、突然の変更をものともしない決勝進出者のパフォーマンス。これは重要に賞賛すべき点ではないでしょうか。(と、同時に来年に向けてのハードルがグンとあがったのであります)コンビ名をカメラ目線で発表する上戸彩さんも素晴らしかった。10回もありがとうございます。ただ、笑神籤(えみくじ)というネーミングは、放送作家臭がして本当にダサいのでどうにかしていただきたい。

 

勢いに乗ってもうひとつ気になっていたことを言いたい。これは前々から違和感を感じていたことだ。決勝進出者紹介などの写真で絶対に拳を握っている。芸人なのにファイティングポーズをとらなければいけないのか。彼らは格闘家ではない。漫才師だ。戦っているのは観客を笑わせるためだ。サンパチマイクを中心に立っているのがかっこいいのに何故このポーズが定着したのかわからない。起源を教えてほしい。

 

ただ、この私の長年の疑問を一部浄化してくれたのが、敗者復活戦でやっていたさらば青春の光のボクシングのネタだ。サンパチマイクを片付けるボケなど痛快であった。もし彼らが私と同じ考えを持っていたとして、このネタを作っていたとしたら、という誇大妄想をする。

 

本戦の話に戻す。参加メンバーを見ると、旧M-1に参加していない世代が着実に増えてきた。本来のM-1の醍醐味である新星の勢いと、出場期限が迫る中堅の哀愁が程よく混じり合った大会ではないだろうか。

 

順番がその場で決まるので、「集中力が持続する」+「現場が温まる」タイミングがちょうどいい3〜4番が有利という予想は立てていて、なんとなくそのような展開になっていたが、結果的に波が過ぎて、場の集中力が一旦途切れたタイミングで選ばれたマヂカルラブリーは割を食う結果になってしまった。

 

マヂカルラブリー面白かったんだけどなあ。今回の審査員の観点からいうとどうしても「展開」が乏しかったということなのか。審査後の上沼恵美子(半分占い師)vs野田クリスタルの戦いがどことなく別世界線の「ズバリ言うわよ!」の細木数子vsレイザーラモンHGのような雰囲気であった。

 

一旦底を打ってしまったために、さや香が、私が思っていた以上に点数に伸びなかったのが残念だ。2005年のチュートリアルのような空気感だった。(客席のため息も印象的だ)シンプルなネタの題材だけども、ボケの対立→友好のポジションチェンジからの流れに持って行かれた。さや香の盛り上がりの結果、ミキの得点が伸びたのではないかと推測する。さや香は、この4分で確実に多くのファンを獲得したコンビのひとつではないか。えみ-1グランプリ優勝おめでとう。

 

今大会で最もエモかったのはジャルジャルだ。完成されたシステマチックな漫才は最高だったし、このネタに注いできた時間の量も伝わってくる。審査結果後の福徳の、涙目で、悔しさむき出しの表情。そして飄々とボケる後藤に対してボソッとつぶやいた「ようボケれんなあ」というセリフで、こちらもウルウルとしてしまった。芸人とアスリートの狭間を垣間見た瞬間だった。この結果を「好み」という言葉で片付けるのは彼らに対して失礼だ。面白くなくても好きだったらいいのか。高得点を取れる漫才とはなんなのか。永遠の課題かもしれない。松本人志の「一番面白かった」というのが救いになってくれるといい。

 

そして、優勝のとろサーモン。決勝進出が決まったときからもう嬉しかった。始めてみたのはめちゃイケの「笑わず嫌い王決定戦」だったような気がする。すかし漫才からボイパ漫才を経てたどり着いた境地。15年の集大成がチャンピオンなんてM-1らしい幕切れだ。ネタ以外のインサイドワークも老獪であった。あんなん言われたら、ネタ中、ミッキーマウスにしか見えなくなるわ。つかみの伏線みたいになっていたのは偶然か作戦か。和牛も面白かったなあ。きっと審査員の誰かは「もう1回観たい」みたいな欲があったのではないだろうか。

 

今年が「とろサーモン」で去年は「銀シャリ」。「笑い飯」もいるし、食べ物に関連したコンビが優勝していることを法則としてまとめあげて、どこかにアップするはずだ。で、今年組んだコンビとか験を担いで「パクチー」とか「ビリヤニ」とか付けるんだろうな。「ん」がつくコンビが売れるみたいなやつ。ディズニーランドでデートしたカップルは別れるみたいなクソみたいな法則。確率で物を言え。

 

兎にも角にも、今年も高レベルのM-1で本当に魂を揺さぶられました。この後に実施されるTHE Wの行く末がとてつもなく気になるところであります。