砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

これは日常のはなし(『ヒメアノ~ル』観たマン)

『ヒメアノ~ル』を観た。

www.youtube.com

 

この映画、ノーマークだったのだがTwitter上での評判を読んで興味が湧いて観に行ったらそれはそれは、とんでもない怪作だったわけで本当にTwitterで映画を勧めてくる人には感謝してもしきれない。「ヒメアノ~ル」のタイトルが出るタイミングとか素晴らしい。タイトルを見て鳥肌が立つって生まれて初めての経験だ。

 

映画というものを、我々は「ジャンル」で区別してしまうことがある。そのジャンルで見たい映画の方向性を決めたりするのだが、この「ヒメアノ~ル」のジャンルはなんといえば良いのだろうか。強烈な「ラブコメ」と「スリラー」が絶妙にひとつに交じり合っている。

 

「ラブコメ」パートの中心人物は濱田岳演じる岡田。岡田は、先輩である安藤(ムロツヨシ)と、安藤が気になっているカフェ店員(佐津川愛美)に色々と振り回されるのだが、見事なお人好し力。無害な童貞力。濱田岳みたいな人が近くにいたら、とても穏やかな日常生活を送れる気がする。各々のキャラの癖が強い非常に強い『ヒメアノ~ル』にて、我々、観客は、岡田を通じて物語の深みにハマっていく。

 

「スリラー」パートは、何と言ってもGO森田演じる森田。子どもたちとカレーの歌を歌ってとは思えないほどの狂気。私の中で「髪の染まりが中途半端のやつは大体ヤバイ」という持論が確信になるぐらいの暴れっぷり。100分程度の映画なのに、そんなにサクサクしちゃっていいんですか?というぐらいの立ち回りっぷり。夢を失ったやつが一番怖いんじゃないだろうか?森田の一挙手一投足にヒリヒリするのだが、とりわけ恐ろしいのが、冷静にキレている瞬間である。他人に発言の矛盾を指摘されたときに、同じ言葉を何度も繰り返して否定する。「これ以上しつこく聞いたら手出しちゃうよ?」と潜在的に警告するように感じた。ただ冷酷な凶悪犯でなく、相手に猶予を与える人情が残っていることがなおさら怖い。

 

しかし、全体を通して、この映画になんだか「なくはない」と思ってしまうのがよっぽど怖かったりする。街で見かけた素敵なカフェの店員さん、恋愛下手な先輩、最寄り駅で見かけたヤバイやつ、あの頃の後悔。普遍的なディテールがどこか自分の生活と、この映画の世界がひとつづきになっているような錯覚に陥らせる。『ヒメアノ~ル』のジャンルは「日常」なのだ。

 

この映画を見てから、帰り道がいつもと違って見えている。