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『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』観たマン

『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』を観た。


「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」予告編 - YouTube

 

まさかの上映時間をタイトルに入れるという奇策。ただ、86分とは思えないほど濃密な時間であった。こんなに移動距離が短いのに重厚なロードムービーがあっただろうか。86分間、ひたすらトム・ハーディの一人芝居なのだ。車で目的地に向かって走る主人公・ロックと彼を取り巻く人物との通話内容しか、我々は手に入れられることができない。仕事や家族という日常の鎖につながれている中で決断を迫る、ロックの繊細な心理描写にヒリヒリする。

 

電話を切った後、ポツンと世界から切り離される瞬間にロックが露わにする感情が恐ろしいが、どこかあの感情の出し方に共感してしまった。車の中ってとても不思議な空間だと思う。隔離された空間でありながら、気を抜いたら死ぬ可能性もある。緩和と緊張が絶妙なバランスで共存するがゆえ、人間の本性が最も出やすいシチュエーションのひとつではないだろうか。

 

夜の高速道路がひたすら続くのも、また人を狂わせる。通り過ぎる車の走行音はまるで波のようで、美しい音に聞こえることもあるが、終わりの見えない闇の魔力に飲み込まれる者もいる。その空間を綱渡りするようにロックは走る。ただただ走る。そして走り続けた先にロックがであったものにホロっとしてしまった。

 

それにしても、夜の高速ってなんだか夢を見ているような感じに陥る。(私自身、運転免許を持っていないので専ら助手席から眺めを見ているのだが)退屈なんだけど綺麗な1本道。だんだんと減っていく目的地までの距離。我々に構ってほしそうに色変わりをするなんとなく聞いたことがある会社の看板のネオン。夢から一瞬覚めるためのパーキングエリアのアメリカンドッグ。そして、いつしか寝てしまっている私。運転手が寂しさを紛らすために付けたラジオの音で申し訳無さそうに起きるが、運転席は無言でただただ目の前の道路を走る。話しかけることも出来ずに私は前を向く。なんだかこの映画は助手席で寝たふりをしながら、知ってしまった秘め事のように感じた。あくまでも助手席人生うん十年の意見だけども。

 

そういえば、トム・ハーディが主演の作品がもう1本公開されているんだった。見なければ。