文学界2月号に掲載されている又吉直樹さんの「火花」を読み終えた。
漫才師である主人公:徳永のコンビ名が「スパークス」で、題名が「火花」
この背景からどうしても思い出すのは、又吉さんの前のコンビである「線香花火」という名詞だと思う。
きっと、漫才師が書いた私小説という俗的なフィルターは外して読んだほうがいいのかもしれないけど、この設定はその単語を想起せずにいられない。
冒頭の花火大会の営業のような屈辱的な仕事は実際にあったのか、主人公が伝記を書くことになる、物語の中心人物「あほんだら」の神谷さんにはモデルが実在するのか、そんな野暮なことを考えながら読み進めていった。
物語の中では徳永と神谷さんのやり取りが何度もあるんだけど、その会話がシュール。
シュールの中でも文字にするから面白い。漫才のボケ同士ならではのつかみ合いのないボケの掛け合い。その掛け合いの積み重ねが、神谷さんの芸人としてのカリスマ性、エッジのすごさを際立たせるし、(と同時に又吉さんの次元の違う想像力に感銘し、)
そのセンスに嫉妬とともに尊敬の念を置く徳永の関係性の濃密さを描いていく。
又吉さんの東京百景というエッセイ的短篇集も前に読んで、好きなんだけど、 この人の芸人とその人達との関係性から漂う哀愁を切り取り方が本当に素敵。
東京百景で、一番好きな作品が「池尻大橋の小さな部屋」という恋人のことを想ったラブレターのような話なんだけど、(それを読んでウル泣きしたんだけど)この神谷さんと真樹さんという女性の話もそのような感じでウル泣きしてた。「火花」の中での好きな場面のひとつ。きっと「その風景」に出くわした場面ならシュールな風景なんだけど、今までの神谷さんの人間性を知っているからどんどん泣いてしまった。切なさのつめあわせ。
好きな場面をもうひとつ挙げると、クライマックスのスパークスの漫才。喜怒哀楽って言葉があるけど、その4つの感情が奇跡的なバランスで1つになったのがこの漫才のシーンだと思う。その漫才によって自分の感情がコントロール不能に陥るんだけど、それさえも心地よい。途中から、この漫才とともに俺の感情ぶっ壊してくれ!という気持ちになった。
そして最後の展開。これには度肝を抜かれてしまった。そうくるのかよ!直樹又吉!KOCでやってたハンサム男爵と化け物のコントを思い出す。シュールでファンタジーでとても愛おしいラスト。
どうにか、実写化になりませんように。