砂ビルジャックレコード

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キングオブコント2020 ニッポンの社長のネタについて書かせてください

ニッポンの社長キングオブコント決勝1本目のネタを繰り返し見るたびに、劇中で繰り広げられるボーイ・ミーツ・ガールに胸がキュンとする。青春の芳しさが私を刺激する。

 

このコントでまず、登場するのは半人半馬の高校生、ケント。ケントはその見た目から高校では浮いた存在のようだ。友達も恋人もいなく既に将来の孤独を悟っているのがとても切ない。「脚が速いのに全然学校でモテない」というケンタウロス高校生あるあるも、絶妙に存在し得るラインをついている。きっと、小学校の時まではちやほやされたんだろう。高校生になるに連れモテるスペックが変わってゆく中で、唯一、他人に勝てる要素さえも無視される辛さに胸が痛くなる。

 

そんなケンタに偶然の出会いが訪れる。目の前に落ちた財布を拾い、それを届けようとすると目の前には半牛半人の部屋着の女性がそこにはいた。ギリシャ神話でいうミノタウロスのような見た目の女性と見つめ合った瞬間。HYの「AM11:00」が流れ出す。高校生のケンタウロス同様に、部屋着のミノタウロスというリアルと神話の間をついた格好に惹きつけられる。3学期なのにあんなに薄着で外に出られるなら、やはり牛の方の肌感覚なんかなあとミノタウロスの生態まで気になってしまう。

 

恐ろしいのがケンタウロスミノタウロスHYという、このコントで重要となるものを全く劇中で説明していない点だ。目で見て、音で聞き、状況を察す。このコントが構成される要素の背景を知らないものは、振り落としてしまえという強気の姿勢が現れている。(むしろ、視聴者を置き去りにしないように噛み砕いて説明するのがナンセンスなのかもしれない)この3つを認知しているし、カラオケでは誰かしらHYを歌っていた世代の私にとっては、とてつもなく突き刺さる世界観だった。

 

たっぷりのイントロを経て、弓矢でなくマイクをバッグから取り出し、歌うケンタ。「AM11:00」が一目惚れを暗示するBGMでなく、コントの本流になることがおかしい。人間以外の生物も歌ったり、踊ったりして求愛行動をする。生きとし生けるものとしての愛の形を見せつけられる。

 

この「AM11:00」の展開を知っているから、次は、次はどうなるの?という期待感が押し寄せる。無意識にフリが始まっている。このサビが終われば女性パートだ。そこで部屋着のミノタウロスが歌い出す。少なくとも人間の私達には理解できない咆哮で。たしかに、牛の頭だから声帯も牛なのかと妙に納得しつつ笑ってしまった。この言葉の違いは、なんだか付き合う前の価値観のぶつけ合いにも似ている気がする。

 

その咆哮をかき消すようにケンタのラップバースに入る。余すことなく「AM11:00」を利用しているのが美しい。不気味に灯る赤い照明を打ち消してシームレスに本流に戻し、ラップするケンタの一世一代のパフォーマンス。それを縦ノリで受け入れるミノタウロスの包容力も見逃せない。

 

高校生の登校時間(もしくは下校時間)に部屋着でいるミノタウロスは、ケンタより年上の存在なのだろうか。平日休みの仕事をしているのではないか。ふと、イッサイガッサイのMVのような関係を想像しだす。3学期のイッサイガッサイ。春休みにミノタウロスの家に入り浸ってだらだらするケンタが見たい。お花見してみたはいいけども、まだ安定しない春の天気に苦笑いしながらもミノタウロスの作ったお弁当を食べるケンタが見たい。青春は誰にでもある。

 

ミノタウロスもラップでアンサーをする。人間には怒りのように聞こえる歌声さえも受け入れるケンタは、きっと同級生の中でも精神的にだいぶ大人だ。そして、2人は口づけをかわす。するとどうだろう。さっきまで、猛々しく聞こえたミノタウロスの歌声が可愛い人間の女性の声になっているのだろうか。イッツアマジック。勝手ながらこの2人が受けてきた辛さを背負い込んで見てしまっているから、とてつもない幸せな展開に、大笑いと微笑みが同時に押し寄せる不思議な感情になる。

 

ただ、これが結末ではない。声帯が入れ替わったかのように、今度はケンタが人間の声を失い、嘶きながらコントが終わる。一見バッドエンドに見えるが、私にはひとつのハッピーエンドに見えた。マイノリティ同士が地球上で唯一の理解者に出会えた嬉しさで、彼の野性が溢れ出したのだろう。たとえ、本当に嘶くことしかできなくなっても、ミノタウロスは彼のことを離しはしないはずだ。コントはここで終わっているけど、紆余曲折あった2人の今後を祝福せずにはいられない。恋愛するって本当に素晴らしいですね。

 

あのシーンまで遡りたい(『TENET』観たマン)

『TENET』を観た。

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もうビデオテープを使ってないのに、ふと「巻戻し」という言葉を発してしまうことがある。リモコンを見ると「早戻し」という表記だけど、「早戻す」という動詞は納得いかない。DVDであっても、「巻戻す」という言葉のほうがしっくりくる。これって、いつの間に根付いた時間の線分のイメージに依るものなんじゃないかと思う。DVD以降の世代は時間が直線の概念しかなくて、「巻戻す」ビデオテープ世代は直線の時間線分に加えて、2つの渦のような線分も持っているという仮説を提唱したいのだけど、わかりますか?賛同してくれる人はお手元の◀◀ボタンをスイッチオン。

 

時間の魔術師、クリストファー・ノーランの最新作『TENET』の中で明らかにされるタイムトリックを目撃したときに、ふと「巻戻し」という絶滅危惧種に指定された言葉を思い出した。ノーランは過去の作品でも、色々な角度から、私達が持つ時間に関する常識を映画の力を使ってぶっ壊してきた。今回の裏切り方もトリッキーだったし、観終わったあとしばらく経っていても混乱が残っている。

 

特にエンドロール直後はひどくて、『TENET』酔いみたいな症状が現れた。IMAXの巨大なスクリーンに映し出されたノーランマジックに打ちのめされて、映画館を脱出し、街へ出たら、横断歩道を行き交う人達がいた。この通行人は前に進んでいるのか、それとも後ろに進んでいるのか、当たり前の光景なのにわからなくなってしまった。くしくも世界はコロナ禍。マスクをした通行人ばかりなので「あれ、TENETの世界に迷い込んだ?どっちの時間で進んでるの?」と自分の思考回路はむちゃくちゃになる。

 

『TENET』は名もなき男が、世界の終末を救うために、不思議な時間の性質を持った敵と戦うスパイ映画だ。体を張ったスパイアクションも見逃せないし、タイムトリックだけじゃない部分も派手にやってくれるのがノーラン作品のすごいところ。特にオスロ空港でのミッションは手に汗握る展開だし、救急車だの飛行機だの金塊だの、画面上で大暴れ。そうそう、映画じゃなきゃ、大画面じゃなきゃ見れない映像を見せてくれるからノーランが大好きなんだ。

 

そんでやっぱり、ノーラン作品だから難解な部分も多い。きっと1回、いや、2、3回観ても『TENET』すべてを満喫できることはできないだろう。ストーリーも、ばっしり伏線が張られているけど、そもそもその伏線を見逃していることに後半で気づく。あれってなんだったっけ?と、心の中の松蔭寺大勇が何度も頭を振っているが、残念ながら現実の時間は編集できず、順行するのみだ。エンドロールが流れ、マスクを付けたまま映画館を脱出した私は、混乱した結果、前述の『TENET』酔いを起こした。

 

メメント』のときもそうだった。わかったつもりでいたけど、結局芯の部分では映画を消化できていない。幸いにも『メメント』はDVDで観てたので、まきもど、、早戻しボタンを押して、全容を理解できた(はずだ)けど、『TENET』は『メメント』以上に難解だ。今のうちに映画館の設備で大迫力の映像と音響を体に刻み込み、いずれ出るソフトや配信で物語や細かい描写をしっかりと堪能する。◀◀ボタンを押すことを楽しみにしている時点で、私はノーランの作った美しい時間軸の中をぐるぐる駆け回っている立派な虜なのだ。

 

 

 

 

 

90年代生まれ、定食屋で悩む

チェーンの定食屋に行くと十中八九悩み事が2つ生まれてしまう。1つめはメニューから何を食べるかということだ。昨日の夜に食べたもの、今日のお昼に食べたもの、料理ジャンル、食材を過去のデータとして答えを導こうとするが、期間限定の定食がそのデータを打ち破ろうとする。食券機の前で立ち尽くすのは横断歩道の真ん中でずっといるようなもので、迷惑行為どころの騒ぎではない。心を強く持ってその日の正解と思われるボタンをタッチし、回答権(券)を手にする。

 

 

今の若い子は知らないだろう。昔のテレビという媒体で行われていた素人が賞金を獲得できるクイズ番組があったのだ。そのクイズ番組では、賞金額が多くなるに連れ回答から正誤判断までの時間が腹立つほど長かったのだ。例えるならば、区役所でなにかの手続きを完了するまでの時間と同じくらい。現代なら冗長なドラムロールを鳴らしてる好きにググってセルフで正誤判断。そのままテレビOFF。YouTube見よってなる。

 

 

ただ、チェーンの定食屋は待たせはしない。ほどよい待機時間のあとに出された定食の湯気を顔に浴びながら、この選択が間違いないでことに気づく。ライフラインを使わずによくたどりつけた自分を褒めてあげたい。

 

 

しかし、ここで2つめの悩みが私の前に現れる。さっきまで僕を祝福していた湯気が牙を剥くのだ。熱い。熱すぎる。尋常じゃないほどの熱い味噌汁が行く手を遮るのだ。しかも私は猫舌である。あつあつのお味噌汁が鬼門なのだ。私自身としては、まず味噌汁を飲んで体を一回温めてから定食を食べ始めたいのだけど、ヒトカゲを選んだばっかりにニビジムで苦労した頃を思い出す。そのまま冷めるのを待つのか?自分で自分に待てをするのか?悩んだ挙げ句、ヒトカゲ(味噌汁)で攻略するのを諦めて、ゼニガメ(お冷や)、フシギダネ(サラダ)から手を付ける。

 

 

慣用句としての使い方でないほとぼりが冷めるのを待ってから、ようやく味噌汁のお椀を持つ。ここまで、ゼニガメフシギダネで定食のHPを削ったのだから大丈夫だろう。ここは仕切り直しで、味噌汁を一口すすって、ご飯をパクっ。そのあと生姜焼きを食べて、ご飯、、、と正統派の三角食べスタイルで平らげていけばジムバッジもゲットだ。そうだ、おいらは未来のチャンピオン。お腹いっぱいにして次の街へ行くんだ。と、意気揚々と味噌汁をすす、熱っ!

 

 

 

 

 

 

こ う か は ば つ ぐ ん だ !

 

 

 

 

 

 

私は火傷した舌をゼニガメで応急処置しながら、同じ失敗を繰り返す自分のことが嫌になりながらもジムバッジをゲットする。未来のチャンピオンへの道はまだ遠い。