『壊れた心』を観た。
色気が足りない。これは私がこの星に生まれついてから今日に至るまでの課題のひとつである。全くないがゆえに、他人の醸し出す色気に敏感になってしまったのだが、今、日本で1番の色気を出す人間ってこの男なんじゃないだろうか。浅野忠信。色気だけでなく殺気、狂気も合わせこんだハイブリッドなオーラに画面越しなのに続々してしまう。『淵に立つ』のあからさまな狂気を放つ場面も記憶に新しい。
ある作品をみたとき予告編で、浅野忠信がまたとんでもねえ色気を出していた。それが今回の『壊れた心』である。2014年の東京国際映画祭コンペティション部門にて上映された本作、クラウドファンディングの支援を受け、およそ3年の時を経て劇場公開に至ったという背景のある作品。マニラのスラム街を舞台に殺し屋と、ある娼婦の片道切符の逃避行を描いている。浅野忠信のアジアの殺し屋役のハマりっぷりったらもう。
この『壊れた心』だが、最大の特徴は、台詞がほとんど無いということ(言葉が出たとしても、歌詞や感動詞として程度)。映像と音楽だけで、私たちは、醜いくせに美しい『壊れた心』の世界に、圧倒的に押し付けられる。あっという間の70分の素敵な悪夢。
映像は、水中から浮世を見ているような感覚を受けた。きっと、溺れてしまって、もうすぐ息が続かなくなる、もうすぐ意識がなくなる。そんなときに脳内に浮かぶ光景ってこういうのかなあと暗闇の中で考えていた。神話のようでもあるし、本当に不思議な映像体験だった。
音楽についてだが、この主題曲がとても素敵”!エンドロールのときにも、この"RUINED HEART"が流れるのだが、退廃的なのに明るくて、病みつきになってしまった。未だに頭から離れない。きっと人生で一番"Ruined"という単語に向き合っている時間だと思う。いつでも“Ruined”しても問題ないさ。