砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

声に出して読みたい日本語、のん。(『この世界の片隅に』観たマン)

この世界の片隅に』を観た。

 


映画『この世界の片隅に』予告編

 

私は、正直に言うと、日本の戦争映画ってどうにもおぞましい描写を連想してしまう。それ故に観ることを比較的避けてしまうクセがあるのだが、この『この世界の片隅に』という映画がじわじわとタイムラインで話題になっているので、意を決して観に行ってきた。

 

第二次世界大戦中の広島から呉に嫁いだ女性・すずの視点がベースとなった話である。すずという女性は、当時の嫁スキルとして最も重要だと思われるテキパキ度が致命的になく、段差も何もないのに躓いてしまいそうな、のほほんとしたキャラクターである。(また、義姉の徑子が全く正反対な性格なのが、すずのキャラクターを際立たせる)

 

その、すずの声を演じるのが、能年玲奈もとい「のん」さんである。色々な噂は立っているが、この荒波のような世の中をを「のん」という2画の名前で戦っていこうとするだけで応援したくなってしまう。声に出して読みたい日本語、のん。この、のんさんの声と、すずのキャラクターが十分すぎるほどにマッチしているのである。“もしも能年玲奈が戦時中を生きていたら”と錯覚するほどに、ファンタジーを散らせつかせながらも、苦しく緊迫した生活の中で、すずはそのキャラクターで、彼女の世界のテンポを微笑ましくずらしていく。

 

戦時の緊張と、すずの醸し出す空気による緩和のバランスがとても素晴らしい。たとえば、感情の赴くままに動いたすずは憲兵に怒られてしまう。しかし、その光景を見た一家は、笑いをこらえる。チャーミングに生きている彼女を見ているだけで我々はなんだか救われるのだ。

 

一般的に想起される戦争映画とは毛色は違うものの、空襲や、困窮する食糧事情などの描写はとてもシビアだ。未来を生きている私たちは結果を知っているから幾分耐えられるものではないかと思うけども、絶え間なく鳴り響く空襲警報は、わずか数十秒のシーンだが頭がおかしくなりそうであった。きっと、あのときの日本人の大半が体験した戦争の日常がここに映し出されている。観終わった後もしばらく、私の心に、しとしとと雨のようなものが降り続けた。