砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

謎の熟読紳士

電車で新聞を読む人が減った気がする。絶滅したわけでなく、たまに見かけるのだが、もっぱら車内はスマホをひたすら見つめている人間ばかり。座席一列に座っている乗客全員が前かがみになってスマホをいじっている光景はしょっちゅう見る。あなたたち、テトリスなら消えているよ。

 

こないだ、満員電車に立って乗っていたときのこと。座席にすわっているサラリーマンが新聞を読んでいる様子がぱっと目に入った。サラリーマンとしては、比較的小綺麗なその男は、新聞を一文字一文字確かめるように折り目をつけながら丁寧に読んでいる。その熟読っぷりがなんだか気になって、そのサラリーマンをもう少し観ていたら、ある変わったところに気づいた。その新聞が一週間前の日付のものであったのだ。

 

私の思考回路が迷子になった。コラムや連載などは載っているにしても、その紳士は1週間前の情報を丹念に読んでいる。基本的に1日で廃棄物となる新聞だというのに。果たして、この紳士の目的は何だ。

 

しばらくして、ぐるぐる迷っていた私の思考回路は答えを見つけた。この紳士はおそらくタイムトラベラーなのだ。未来の地へと来たタイムトラベラーの紳士は現在までにどんなことが起こったのか、頭に入れておく必要がある。もし、タイムトラベラーだということがバレてしまえば、その時空間移動能力に目をつけた巨悪が、彼を付け回し、危険な目に晒されてしまう。安全な旅行のために、歴史の教科書のように、彼は新聞を熟読していたのだ。

 

しかし、詰めが甘いぞ、タイムトラベラー。大勢の目を気にせずに過去の新聞を熟読するのは、不審がられるぞ。せめて電子版にしなさい。私が巨悪じゃなくて幸運だったな。楽しい旅行になることを祈っているぞ!