砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

ロンドン降臨記1

8月末の話になるが、海外旅行に行っていた。行き先は霧の都・ロンドン。生まれてはじめてのロンドンであり、生まれてはじめてのイギリス、なんなら生まれてはじめてのヨーロッパだったりする。

 

まとまった休みもとれたタイミングで、学生の時からずっと憧れの街であったロンドンへ行くことを決意した。ユーラシア大陸を越えた島国にとうとう足を踏み入れる時が来たのだ。

 

成田空港からブリティッシュ・エアウェイズヒースロー空港へ向かう。海外旅行は4、5年ぶりなので、窓際の席でだいぶドキドキしながら離陸のときを迎えた。轟音をあげ、滑走路を飛び立つ飛行機。真っ平らなコンクリートだらけの景色は、だんだんと青色に染まり、ついに一面がブルーになった。ほっ。これから長い旅の始まりである。

 

機内のひとつの楽しみは映画を見ることだ。それが、日本未公開のものであるとなおさらいい。目の前の液晶画面をポチポチとタッチしながら検索すると『ファイティング・ファミリー』を発見。これは、まだ日本ではやっていないはずだし、見るつもりだった作品だ。完全なヒアリングはできないので、英語字幕を付けて、なんとか物語のキャッチアップ。

 

WWEのスーパースター(当時はディーバという名前だった)のペイジの事実に基づく成り上がり物語。ファイティング・シンデレラ・ストーリーとでも言おうか。うん、こういうシンプルなサクセスストーリーが心地いい。完全に英語のセリフを理解していないと思うのだが、それでもどういう展開なのかわかることが素晴らしい。WWEの裏側も見たような気がして少しスケベな気持ちにもなる。

 

ペイジはイギリスのインディーレスラーの一家に育ち、その家族とのストーリーラインも重要なポイントになるのだが、ペイジの父親役をあのニック・フロストが演じているのが二重丸。モヒカン姿がかっちょいい。

 

ブリティッシュ・エアウェイズっぽいなあと感じたのは、そのモニターのコンテンツの中にクイズ・ミリオネアのゲームがあったことだ。あの独特の形状のヒモ付きリモコンを使って、4択から答えを選ぶ。英語だし、制限時間あるし、イギリス国民では常識と思われる問題もあったが、ライフラインをフル活用をしながら遊んでいた。なかなか全問正解に到達できなかったので、飽きてしまった。独特のリモコンをだいぶポチポチできたので満足。

 

そういえば、ロンドン滞在時にテレビを付けて知ったのだが、イギリスでは今もミリオネア(Who Wants to Be a Millionaire?)が放送されている。イギリス版では、3つのライフライン、50:50、テレフォン、オーディエンスの他にもうひとつのライフラインが存在しているのである。さて、それはどんなお助けアイテムでしょうか?(突然の問題)

 

 

 

 

 

 

 

 

A:問題を1問スキップすることができる

B:1回だけ検索することができる

C:司会者に聞くことができる

D:問題を変更することができる

 

 

 

 

 

 

 

【正解】

A:問題を1問スキップすることができる

B:1回だけ検索することができる

C:司会者に聞くことができる

D:問題を変更することができる

 

 

 

そう、司会者に見解を委ねることができるのだ。もちろんこのライフラインがあるからには、司会者も答えを知らないということだろう。ダンディなおじさまが、小気味よくアドバイスをするというライフラインはいかにも外国らしい。日本なら、みのもんたに聞くということだ。県民の特殊性に関する問題や、夫婦のもつれに関する問題が出たらすぐにこのライフラインを使うのだが。

 

 12時間のフライトも、もうすぐ終わり、まもなくヒースロー空港に到着するとのアナウンスが流れる。甘美な曲は流れなかった。窓から見える陸地がイギリスで、そういえばグレートブリテン島ってギザギザしてるから、あの辺なのかなあと、自分の頭の中の地図と照らし合わせる。きっと違うと思う。(これを学会では「函館山から見る夜景が北海道のしっぽみたいなところと誤認する現象」と呼びます)

 

街のかたちが見えてきそうなときに、厚く覆われた雲が、司会を遮る。おお、これが曇りの都市ロンドンなのか。さっそく高揚する気持ち。段々と下降する飛行機は、その厚い雲の中へ突入する。もくもくとした雲の中を抜けると、ロンドン市内が一気に眼下に広がる。街を貫く巨大な水路がテムズ川であることはひと目でわかったし、ロンドンアイやいくつかのフットボールスタジアム、ビッグベン(工事中なのも機内から目視できた)が、ミニチュアのように立ち並ぶ。ああ、ロンドンだ。本当にロンドンに向かっていたんだなと、このとき強く再確信した瞬間であった。

 

 

入国審査も顔認証でスムーズに突破(「Sightseeing」と言いたかったけど)して、とうとうロンドン降臨。どうやら時差ボケはなさそうだ。

このポーズをするのを忘れた。

 

 

着いたその足で、Tubeに乗って、ピカデリー・サーカス周辺を散策する。この空気、人々、道路の幅の広さに二階建てバス。空で確信したけど、改めていう。ここはロンドンだ。ストリートドラマーのおじさんがとてつもなくかっこよかった。

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キャリーケースをひきずりながら宿に到着して、1日目が終了する。明日から本格的な行動開始だ。

 

もうひとつの1969年8月9日(『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』観たマン)

  『チャーリー・セズ/マンソンの女たち』を観た。

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が楽しみだった私は、8月にシネマカリテで上映していたこの作品を予習として見に行っていた。我ながら良い努力のかけ方だと思う。

 

『OUATIH』では、チャールズ・ファミリーについて深い言及はされておらず、謎のカルト教信者たち、映画スタジオに集団で住んでいるヒッピーたちという描写だ。チャールズ・マンソンという男を知らない観客の中には、彼がこの作品に登場してたことさえも気づかない人がいるのではないだろうか。『チャーリー・セズ』は、このチャールズ・マンソンや、その集団にスポットを当てた話となっている。チャールズ・マンソンという男の人となりや、なぜ、チャールズ・ファミリーがロマン・ポランスキー宅に侵入し、シャロン・テートの殺害に及んだのか、別の角度から見た1969年8月9日までのストーリーが描かれていく。

 

主人公は、チャールズ・ファミリーの女性たち3人だ。彼に洗脳され、やがて凶行を犯した彼女たちは女子刑務所に収監される。その刑務所内で講義を行う大学教授カーリーンとのふれあいを通じて、彼女たち、ファミリーの暮らしぶりが回想シーンで明らかになっていく。

 

当時の事件から時間が経ったからか、悪のカリスマとして見られるチャールズ・マンソンだが、本作では、ロックスターを夢見る女性蔑視の激しい誇大妄想者として表現されている。デモテープを送ったり、プロデューサーを自分のコミューンに呼んで一曲披露したり(バックコーラスはチャーリーガールズだ)するシーンは、まだ許せるのだが、ビートルズの「ヘルター・スケルター」を世界終末を予言する曲だと言い始めたり、ガールズにDVしたりと、見てるこちらでさえ地獄のような空間を味わわされる。

 

ちなみにチャールズの作った音が気になって検索してみたら、Spotifyでアルバムが配信されていた。終身刑者の音楽が聞けるのに電気グルーヴが聞けないのはおかしい。復活してくれ。

 

彼女らも、そして観客も、チャールズ・マンソンに翻弄されつつ、やがて、この作品でもあの日を迎える。1969年8月9日の「シャロン・テート殺害事件」だ。テキストを読むだけで寒気がするこの事件が再現されるおぞましさと、この目で確かめたい卑しい興味を持った僕がいた。

 

最後に。「衝撃の実話が映画化」という触れ込みの作品が最近多すぎると思う。ただ淡々と、嘘のようでホントの話を映像化しているだけでは、それは世界仰天ニュースだ。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』も『チャーリー・セズ』も実際に起きた惨劇がベースの映画だが、一部はフィクションになっている。そのフィクションが、この事件に巻き込まれた女性たちへの"救い"と感じ取れる瞬間になっている。それほどまでに、「シャロン・テート殺害事件」は目を覆いたくなる悲しい史実なのだ。

 

takano.hateblo.jp

 

映画って最高だな(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』観たマン)

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観た。

 

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待ってた。このときを待ってた。クエンティン・タランティーノ監督が9作目に「シャロン・テート殺害事件」をベースにした映画を製作中であるというWebニュースを読んだときから映画館で見ることを夢に見ていた。シリアルキラーに多少興味のある私からしたら、タランティーノがこの事件を描くなんて!とワクワクもんである。

 

タランティーノ作品だし、日本にも馴染み深いブラピとディカプリオの初共演作、ヒロインはマーゴット・ロビーと、事前知識を持たずに、ふらっと行っても楽しめる大作にはなっているのだが、ここのページに行き着いたあなたには、できれば事前知識を入れた上で本作を見ていただきたい。

 

物語の中心となる「シャロン・テート殺害事件」は今から50年前の実際にあった出来事だ。当時のハリウッド女優 シャロン・テートがロサンゼルスの自宅で友人たちとパーティーをしている最中に、侵入してきたカルト教信者に無残に殺されてしまう。シャロンは当時妊娠中だった。残虐な殺害を実行したカルト教信者には教祖がいて、それがシリアルキラー史に名を残すチャールズ・マンソンである。ヒッピー文化が流行っていた当時、家出の女性などを集めコミューンをつくり「ファミリー」を形成した男である。いつの時代も「ファミリー」でくくられる集団はだいたい恐ろしい。普遍の真理がそこにある。

 

この辺りの細かい史実や背景について知りたい方は、書店で映画秘宝を買うことをおすすめする。(少なくとも『OUATIH』を学ぶ上で唯一無二な教科書である!)

 

『OUATIH』はこのシャロン・テート殺害事件にむけて、ゆっくり時計の針が進んでいく。1969年のある2日間と、1969年8月9日の出来事を語った作品だ。ヒッピーが蔓延るハリウッドの映画人たちの日常と、そこに忍び寄るチャールズ・ファミリーの影が淡々と描かれていく。

 

初共演のディカプリオとピットは、2人で1人である。ディカプリオ演じるリック・ダルトンのスタントマンが、ブラッド・ピット演じるクリフ・ブースというわけだ。落ち目の俳優となったリックが、再起をかけて、もがくというのがストーリーの本線となる。

 

ここの関係性でいえばリックとクリフの友情が美しい。ビジネスパートナーでありながらも、リックの運転手役を買って出たり、リックの家のテレビアンテナ修理をたやすく引き受けたり、リックの出演したドラマを家で一緒に見てくれるクリフのやさしさに心が安らぐ。おじさん2人が厳しい映画業界の中を、たくましく生き抜く姿がそこにはある。俳優とスタントマン、お互いに認め合う職人同士の絆がなんだか微笑ましい。

 

ハリウッドが舞台で、主役が映画俳優、(なんてったって監督がタランティーノ!)なもんだから、映画愛に満ち溢れていたシーンが多い。リックの”映画内映画”もいくつか流れるのだが挿入される本数が異常に多い!もちろん、元ネタはあるのだけど、このために何本の架空の映画やドラマが出てきたというのだ。リックという俳優のキャリアを描くためのディテールとはいえ、その"映画内映画"をしっかり見たいよ。リックのウエスタンにシビレたいよ。フィクションの中で、更にフィクションがたちのぼり、気づけば限りなく、現実に近い虚構の世界が出来上がっていく。この虚構の世界に2時間半入り浸ることのできる幸せ。映画愛という抽象的なものを映画にしたのが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だと思う。やっぱ映画って最高だな。

 

そして、物語はあの夜へと向かう。リックの家は、シャロンの隣にあって、ここで物語は大きなひとつの塊になる。バイオレンスに定評にあるタランティーノ作品で、この「シャロン・テート殺害事件」がどう描かれているか、という最大の関心事に対し、彼はとんでもない答えを突きつけてきたこれほどまでに心震えるどんでん返しがあったであろうか。

 

Webニュースを読んだ時の夢は叶ったが、観終わって、新しい夢が出来た。アメリカに行ってタランティーノファンで埋め尽くされた映画館で(できればロサンゼルスがいい)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をみんなで観て、このクライマックスシーンで爆笑することだ。痛くなるほど手をたたきたい。喉が枯れるほど歓声をあげたい。ポップコーンの雨も降らせよう。極東の映画館で笑いを殺すのに必死だった。