砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

チワワと相性の悪いもの(『チワワちゃん』観たマン)

『チワワちゃん』を観た。


1/18(金)公開 映画『チワワちゃん』予告編

 

家から駅までの道すがら、チワワを散歩に連れて行っているおばあちゃんをよく見かける。ゆっくりのペースで歩くおばあちゃんに対して、チワワは身体の全てを使わせ、コンクリートの道路を跳ねるようにおばあちゃんについていく。たまに、チワワの元気が勝って、おばあちゃんが引っ張られて、2,3歩早足になる。静と動の散歩を後ろから見ながら私は思った。チワワとおばあちゃんは相性が悪い。

 

『チワワちゃん』の中心人物、チワワちゃんはまさにチワワを表したような人物描写だ。室内犬的な身長、大きくつぶらな瞳、勇敢さと表現しても良いその人懐っこさ、そして僕が見たチワワの散歩のときのような躍動感。それで苗字が「千脇」というのだから完全なる"チワワ"だ。

 

作中で「チワは…」という称を用いるセリフがあったが、この映画には描かれていないエピソード・ゼロを勝手に想像する。誰かに「チワワ…?」って言われて、「ほんとだ!チワワだね!」と、自分の二つ名が確定した瞬間とか、クラブで出会った知らねえクソつまんない男に「こんにチワワ」と言われて、嫌な顔せずに反応する夜とか容易に想像できる。このチワワらしいチワワちゃんの確立したキャラクター性に見入ってしまう。

 

そんなチワワちゃんが、バラバラ殺人の被害者であったことが明らかになったことから物語が始まる。きっと家族以外の近い人間(もしかしたら家族も含めてかも)の初めての死、同じコミュニティの人の死をきっかけに彼らは過去を回想する。

 

とにかく若さという武器の破壊力がすさまじい。冒頭のクラブでの現金強奪のシークエンス。バッグパスして町を縦横無尽に逃げる私服の若者たちと、それを追いかけるスーツ姿のサラリーマンとの対比が、特権としての若者、無敵モードとしての若者であることを強調している。

 

その無敵モードだからこそできる乱痴気のシーンが羨ましい。こんなにポップでキュートな酒池肉林があるのか。あれ、俺も若かったのに、、、?人生で高くそびえ立つケーキに対してラリアットかます瞬間なんかあるんでしょうか?いや、無いです。私であれば、まず腕の筋肉を鍛えて、奪われた最愛の人の披露宴に乱入する。。。って前提が多すぎる。欲望は混沌的に満たしてこそ綺麗なのだ。

 

 

そんな無敵モードもやがて終わりを迎える。押し寄せる社会の波。就活。離れ離れになる仲間たち、そしてある友人の死。人生の瞬間最大風速的な一日と、モラトリアムの終わりは、それこそオールナイトのクラブ遊びの帰りに見る薄水色の空と少し冷たい風のようだった。しかし、例え生きていたとしてもチワワちゃんの老後は想像できないなあ。チワワとおばあちゃんは相性が悪い。

干支入替戦

年末年始にかけて久しぶりにInstagramの短歌専用のアカウントを更新しました。

連作のタイトルは「干支入替戦」です。長年干支が変わっていないのはおかしい。大半が哺乳類を占めているのは、優遇されている!他の分類も入っていないなんて不平等じゃないか!というところを発想の種として、現在の干支12首と入れ替えを狙う干支候補12首の24首をこしらえました。

 

Instagramではこちらから御覧ください。

www.instagram.com

 

【現在の干支12首】

年明けをまばたきせずに迎えたらねずみの親子みたいに愛して

蛍光の牛は光に吸い込まれ 品種改良技術の進歩

お揃いのアクセサリーとかしたかったもう虎だけど人を喰うけど

母のいる月へと浮かぶ子うさぎの後ろ姿はピースサイン

龍が往った空は青くて竜巻に満たない風にも名前があること

猛毒のスパゲッティを巻きぼくの命をフォークの蛇へと授ける

種によるがとてもスケベな馬は視野が500度らしい 馬になりたい

塗りつぶす 静かな夜は聖書(バイブル)に潜むsheepをひとつ残さず

蟹に柿投げてるところをスカウトに見られて年俸10億猿の誕生

青春をすべて捧げたアイドルのCDの方が鳥がよく逃げる 

公園を駆けるすべての犬までも口を閉ざしているこの世界 

いのししか?いや、いぼいのししか?いぼあるか?いぼってかつぼだ、つぼいのししだ。

 

【干支候補12首】

キマイラか何かかネコ目イヌ亜目クマ下目イタチ科のイタチよ

窪塚に猫のお化けが憑いてると言ってた友も父親になり 

岩陰のうつぼだ私は怖い顔しながら好きな子をただ見てる 

大量の宇宙ばったが飛んでいく 夏の夜空を見る恋人たち 

ユニコーンの一本角はにんじんをぶらさげるためではありません

井戸に住むかえるはソファーで寝落ちして つけっぱなしのNetflix

種によるがとてもスケベな鹿の角は50キロらしい 首疲れそう 

夕暮れの崖行くヤギよその空は明るいだろうか暗いだろうか 

腕時計焼けがまぶしいおじさんが寝ている昼の普通列車

アメリカに本社を構える大企業のロゴを貼られて舞うプテラノドン

人類で初めてウニを食べた人よりも讃えよ創った私を 

ジャイアントパンダが空から降ってくる たったひとつの世界の終末

 

 

みんな、短歌を愛してくれよな!! 

一番輝く隣の星へ(『アリー/スター誕生』観たマン)

『アリー/スター誕生』を観た。

 


映画『アリー/ スター誕生』予告【HD】2018年12月21日(金)公開

 

1月3日にしぶんぎ座流星群が流れていたことをてっきり忘れていた。その日は外に飲みに行っていたため夜の帰り道を歩いていたのに。年をとっても、サンタクロースを信じなくなっても、夜空を流れていく星に願いを込めたくなる。それほど、星というのは魅力的で魔力的なものである。ふしぎなことに空の上でなくても星はあって、例えば、唯一無二の才能を持ってぼくたちの生活を明るくしてくれる歌手や俳優、スポーツ選手だ。彼らのことを星と同じように"star"という単語を用いて崇める。

 

『アリー/スター誕生』は、新しい歌姫が誕生する物語である。しかも、その歌姫・アリーを演じるのがレディー・ガガなのだ。現在進行系でバッキバキに光り輝くスターが誕生前夜のスターを演じる。そのバックボーンだけでなんだか期待が高まるのだ。

 

アリーを、スターの階段へ導くのはブラッドリー・クーパー演じる大人気カントリー歌手のジャクソン。たまたま立ち寄ったドラァグ・クイーンの集うバーで観たアリーのパフォーマンスに心奪われたジャクソンは、アリーを自身のステージへ上げる。このバーのシーンでいきなりレディー・ガガのショータイム幕開けとなる。全然、原石感を隠せていない最上の数分間。バスケットコートに見知らぬ老人が現れたんだけど、もう体つきで、特殊メイクしているプロ選手なんでしょ?とわかるぐらいの圧倒感。何度も訪れるレディー・ガガのライブ・パフォーマンスを大画面で見るだけでも映画館で楽しむ価値がある。やっぱガガってすげえ〜!観終わって早速サントラを聞いてニヤニヤしています。

 

やがて恋仲となったアリーがスターダムを駆け上がるのと対照的に、ジャクソンは転落の人生を歩み始める。酒とドラッグに蝕まれる生活。逆転する地位。このあたりのジャクソンの苦悩は共感できないんだけども、なんだか心に響く。輝き続けなければならないスターならではの苦しみである。

 

スターとして輝いている中で、もし、自分の隣に一番輝く星が爆誕したら、、、ぼくたち遠くでその輝きを眺める人間は、その星々の等級の違いなどを考えずに敬うから、一番輝く星の隣の星が抱える劣等感や嫉妬に気づくことがない。ジャクソンの立場のような人間が一番孤独になりやすいのではないか。アリーという星は輝けば輝く分だけ、暗闇が作られるのだ。