砂ビルジャックレコード

カルチャーの住民になりたい

アメリカンドッグのアイデンティティ

コンビニに寄ったら久々にレジ前のショーケースが気になった。レギュラーメンバーとして陣取っているアメリカンドッグを妄想で食べる。美味しい。ならば肉体でもいただこう。会計のときに、外国籍と思われる店員さんに「あと、あそこのアメリカンドッグひとつ」と注文する。

 

そのときにハッとした。店員さんがボソッと「American dog」と復唱したのだ。ネイティブな「American dog」を聞いてしまった。これは思わぬ副産物だ。そうかこうやって発音するのだなあと不思議と高揚感に見舞われたのだがひとつの疑問が浮かんだ。「American dog」はアメリカにあるのだろうか?英語を母国語とするこの国がこんなに安易な英語をつけるのだろうか?答えはWikipediaが知っていた。

 

やはり、私の違和感は正しかったようで、アメリカではアメリカンドッグは「Corn dog」と呼ぶそうだ。生地にトウモロコシ粉を使うためにこのような名前となっているとのこと。しかも日本以外の地域では「Corn dog」の呼び名がポピュラーだそうだ。そう、「American dog」は紛れもない和製英語であった。なんだ偽物の英語なのかよと思いつつも、あの発音のいい「American dog」が頭から離れない。

 

和製英語でも、「American dog」とネイティブに言われてしまえばもうそれは立派な英語なのではないだろうか。明確に言うとアメリカンドッグは小麦粉を生地に使っているのでコーンドッグではないのだ。和製英語や偽物の英語ではない、アメリカンドッグは「American dog」というルーツをアメリカに持つ日本育ちの愛すべき食べ物なのだ。そんな彼だからネイティブに「American dog」と言われるのは本望なのではないのかなとアメリカンのアイデンティティを思いながら、美味しくいただいた。個人的見解ですが、アメリカンドッグにははちみつ&バターのディスペンパックをつけて食べてみたいです。

 

 

 

そういえば、アメリカンドッグのWikipediaにはこんなことも書いてあった。

北海道の一部では「フレンチドッグ」と称して他の地方とは調理方法がやや異なる。

お前のアイデンティティは一体どうなってるんだよ。Chien français....

 

 

連作「24」

短歌を投稿しているインスタアカウントがあるんですが、7月に連作をこつこつと投稿していました。その投稿した作品をまとめております。題名は「24」で0時〜23時までを約1時間刻みで短歌の中に入れ込みました。

よかったらインスタもみてね

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連作「24」

 

 

エントランスゲートへと続く暗がりを手と手をつないで断ち切る0:00

 

朴訥な1時の時報がイヤホンをめぐってシーツの中でにやける

 

昨日よりよく乾かした髪は青くひかめく2時の洗面台で

 

冷蔵庫よ唱えててくれそろそろと辿る3の便座は青い

 

再沸騰したての白湯が染みる四時いまのわたしはいちばんやさしい

 

青色のナイキで走れば旅立ちに間に合う気がした5時30分

 

赤々と光るトマトを煮込んだら魔女になれる気がした6時

 

12人に1人はテレビから謝罪を受ける7時59分

 

あの人の寝顔のために8時20分の列車で息を潜める

 

9時15分の奥からやってきた幽霊船が僕を連れ出す

 

父親が大好きだった人と観たという映画を見に行く10時

 

11時12分だった悔しさを歌にしました聞いてください

 

ブルーワーカーの足音に気づかずシンデレラはまだ眠る12時

 

13過ぎてから空く食堂の空調の音に合わせる咀嚼

 

駅前で秘密結社はほくそ笑む14時に焼きあがるメロンパン

 

連勤の仕事終わりの15時に私を見つめる私服の睡魔

 

舶来の店賑わい出す16ソフトクリームが溶けたなら夜

 

もくもくと割れたチャイムが17の空に響いて家までの道

 

文中のカレーの匂いを求めて知らない通りを往く18

 

照り焼きを食べながら見る19時のアニメで遺体が発見された

 

20時になっても君は見てなくて君の上司をうっすら呪う

 

消費期限21時の弁当を食べる ぬるいつけもののさけび

 

22時22分に真西にて「にが多くない?」と言う人が死ぬ

 

歯車の狂わせ方を調べてる23の乗客たちは

 

 

真夏への勝ち方(『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』観たマン)

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』を観た。

 

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あっという間に梅雨が開けてしまってとうとう真夏がやってくる。真夏に必要なもの、それはアイスクリームだ。真夏にロマンなんていらない。絶え間なく鳴くセミと照りつける太陽に勝つ術はアイスクリームだけなのだ。剣のようにアイスバーを持ち、盾のようにアイスカップを掴む。ガリガリ君なら分厚いから両方使える。コスパがいい。

 

アイスがとっても美味しそうな映画を観た。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』だ。作中に出てくる子役の二人がひとつのソフトクリームをシェアするシーンがあるのだが、本当に欲の満たし方として美しい。同じような状況の大人は、間接キスとか他人の唾液とかどうしても社会衛生的な考慮が入ってしまい、ソフトクリームを順番に舐める行為に抵抗が生まれ、アイスを楽しむ欲望が負けてしまう。その大人の目線を知らない子どもたちの真夏への抵抗に、憧れを抱いてしまう。

 

フロリダのディズニーランドの近くにある安モーテルが舞台の物語で主人公となるのがヘイリーとムーニーの母娘だ。ムーニーの目線(子)とヘイリーの目線(親)で見たそれぞれの生活が混じり合って、この安モーテルが魔法の建物と化す。さきほどのアイスは子の目線で描かれているし、成長期を迎える前に駆け抜けた夏休みの風景を思い出させるような映像表現になっている。子供のときの無敵モードをもっと堪能すべきだったな。

 

一方、親目線はなにかとしんどい。ヘイリーは親ではあるが、未熟な性格で社会に馴染めないタイプ。仕事も見つからず、グレーゾーンな収入でなんとかムーニーを養っている。悪い頭を必死に使ってお金を稼ぎ、ムーニーに愛を注ぐ姿は何とも言えない。社会の外側に弾かれても、なんとか生き抜こうとする人たちは実際にいるのだ。その母娘を優しく見守っているのがモーテルの管理人であるボビーである。もうこのボビーが肝っ玉親父!社会的立場をとりながら、ヘイリーのことを気にかけるボビーにウルウル。社会と人情に板挟みされる人間の苦悩も描いている。

 

とにかく見てほしいのはこの物語の結末である。ヘイリーとムーニーはある事件に巻き込まれるのだが、その最後の最後でムーニーが取った行動に少し泣いてしまった。あんなに無邪気に遊んでいたムーニーの決意とは。アイスクリームが溶けたとき、それは子供から大人になる第一歩なのかもしれない。